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再会




「名前ちゃん!」
「あ、監督!」
「ご苦労様」
「いえ、皆さんもお疲れ様です」

しばらくして部員達が会場へとやって来た。皆がそれぞれ座っていくのを横目に、名前は篠岡と共に飲み物の準備を終わらせて阿部の横に腰を下ろした。その時、不意に懐かしい声が聞こえて名前は首を傾げた。

「タカヤ!タカヤ!」

目線の先で武蔵野の選手が叫んでいる。どうやら阿部を呼んでいるようだ。名前は阿部の袖をクイッと引っ張り、選手の方へ行くように促した。だが、あからさまに嫌そうな顔をした阿部は一向に動く気配がない。

「隆也、榛名さんが」
「いいんだよ、行かなくて」
「でも一応先輩だし…」

そう言って再び促せば、渋々阿部は了解してくれたようで、心底嫌そうに息を吐いて榛名の元へ向かった。

「ちわす」

後ろで腕を組み、仏頂面で榛名の前に現れた阿部。不機嫌丸出しだ。しかしそんな阿部を気にする素振りも見せずに榛名は話を振ってきた。

「お前どこ入ったんだよ」
「西浦っす」
「ニシウラ?どこそれ。野球部あんの?」
「ありますよ。今年から硬式になりました」
「今年から?ってことは先輩いねぇんだ?ふーん…お前もつくづく人に従えない性格だよなぁ」

ニヤリと笑みを浮かべて話す榛名に阿部はますます眉間の皺を深くしていく。早く解放して欲しいという気持ちを態度で表しているつもりなのだが、いまいち伝わっていないのかはたまたわかっていてわざと絡んできているのか、榛名は更に言葉を続けた。

「ところでさ」
「……何ですか」
「名前は?」
「は?」
「だから名前はどこ入ったんだ?」
「え、西浦っすけど…」
「マジで。あいつマネジやってんの?」
「まぁ…はい」
「ちょっと呼んで」

キョロキョロして名前を探しながら榛名はそう言った。だが名前の名前が出た途端、さらに機嫌が悪くなった阿部は早速否定の言葉を述べる。

「やです」
「何でだよ!」
「嫌なもんは嫌なんです」
「ちっ…もういいよ。自分で呼ぶから。名前!名前!」

そう言って大声で名前の名前を呼んだ榛名。案の定皆が一斉に名前の方を向き、一気に皆の視線が自分に集まった事で榛名が自分を呼んでいるのに気付いた名前は、駆け足で榛名の元へ向かった。阿部の放つ不機嫌なオーラを感じつつ、一応無視して榛名に頭を下げる。

「お久しぶりです榛名さん。中学以来ですね」
「久しぶり。てかお前さ、何でうち来てねぇの?」
「まぁ…西浦の方が通いやすいですし、隆也もいましたし…」
「んだよ…俺お前が来んのスゲェ楽しみにしてたんだぜ?」

先程の態度とは打って変わって項垂れる榛名を見、横から聞こえた舌打ちを打ち消すように名前は慌てて「すみません…」と苦笑いを浮かべた。

「ま、もうしょうがねぇけどな。つかお前らもしかして付き合ってんの?中学ん時は隆也って呼んでなかっただろ?」
「へ、あぁ…はい」
「くっそー…先越された」
「…?」
「早めに諦めた方が身の為っすよ」
「相変わらずムカつく奴だな…おい名前!俺は諦めねぇかんな!取り敢えず今日は最後までいろよ」
「こっちも団体行動中ですから」
「オメーに言ったんじゃねーよ!いいか、絶対居ろよ。名前、後でメールするから」

じゃ、と嵐のように去っていった榛名を二人で見送った後、元の席へと戻った。

「お前、榛名とメアド交換してんの?」
「うん、というか無理矢理交換させられた…」
「やっぱりな」

半ば呆れ顔で椅子に腰を下ろす阿部に続き、名前も腰を下ろした時、近くに座っていた栄口が体の向きをかえて「榛名さんか」と尋ねてきた。それに対して低い声で阿部が返事をする。

「そう言えば…俺、阿部は榛名さんと同じ学校行くと思ってたよ」
「ぜってぇやだよ」
「何で?榛名さんスゲェ投手だったじゃん」
「……あいつは最低の投手だよ」

何気なしに発した「スゲェ投手」という言葉に顔を歪める阿部。それに対して栄口と阿部達の近くに座っていた三橋が頭上にクエスチョンマークを浮かべた。阿部としてはここで話は打ち切りにしたかったのだが、今バッテリーを組んでいる三橋にとっては特に気になる事なのだろう、分かり易すぎる程ウズウズしながら阿部を見つめている。どうして榛名を最低だと言うのか、聞きたくて仕方がないのにそれを言葉に出すまでの勇気は無くて、業を煮やした栄口が助け船を出した。

「最低って、何かあったの?」
「…別に」

しかしストレートに聞いてもやはりダメなようで、栄口は一瞬考えて少しだけ話を逸らした。

「榛名さんって、あんまり俺も詳しくないけど球は速いんだろ?」
「ああ」
「今日は投げないのかな」
「投げるよ」
「え、」
「投げるよ、四回から投げる」
「四回?」
「80球しか投げねぇから。自分で厳密に球数制限してんだよ」
「え、でも状況によっては前後したりするんだよね?」
「俺の知る限りではねぇな。どんな場面でも80球投げたらマウンド降りてく」
「…それが最低な投手の理由?」
「…いや…そういう訳じゃねぇけど」

ここで、自分の発言に対して相当二人が気になってしまっているという事に気が付いた阿部。眉を顰めて顔を背けてみるが、二人の視線は外れない。グサグサと自分に突き刺さる視線に、とうとう阿部は白旗を上げ、ポツリポツリと榛名との出来事を話し始めた。



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