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新しい出会い



「起きて。ねぇ起きてってば」
「んー…」


次の日の朝、名前が目を覚ますと目の前にはいまだに夢の世界にいる阿部の姿があった。自分より先に起きていないなんて珍しいこともあるもんだと名前はしばらく阿部を観察していた。だが、ふと目に入った時計を見ると針は家を出なければいけない時間の四十分前を示している。名前は慌てて阿部を起こしにかかった。

「早くしないと間に合わないよ」
「…………」
「たーかやー…わっ」

頬をつねったり胸の辺りをペシペシと叩いていたら急に身体が引き寄せられ、名前の身体は阿部の腕の中にすっぽりと収まってしまった。そして事もあろうに阿部は名前の唇をふさいできたのだ。

「ん、ふっ……ぷは」

いきなりのことで名前はとても動揺していた。だが阿部はその先に進もうとしているのかいやらしく手を動かす。

「ちょっと…っ、寝ぼけないでよ!」
「いった…!」

このままでは自分の身が危険だと、名前は慌てて阿部の身体を叩いた。それでようやく目が覚めたのか名前に触れていた手の動きが止む。危なかったと一息つくと、上から若干怒りがこもった声が降ってきた。

「いきなりなんだよ」
「それはこっちの台詞」
「はぁ?」
「覚えてないの?…とりあえずさ、急がないと間に合わないよ?」

ほら、と時計を指差せば先程の時間からさらに十分ほど経過していた。

「うおっマジか…」
「ね、ほら早く起きて!」

慌ただしく二人はベッドから抜け出すと着替えを取り出した。しかしお互い身に何も纏っていない状態なため、背を向けて着替え始めた。






「おはよー栄口君、三橋君」
「あ、おはよー名字」

あのあとどうにか間に合った名前たちはユニフォームと体操服に着替えてグラウンド整備を行っていた。

「おはよー!さぁ、今日から練習前に瞑想するよ!」

しばらくして志賀から集合の声がかかる。しかし選手がわらわらと集まっていく中で、なぜか名前だけが百枝に引き留められた。

「名前ちゃん、お願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「えっとね、名前ちゃんには先に県大の試合会場に行っといて欲しいの」
「…いいですけど…どこ対どこですか?」
「ん、浦和総合対武蔵野第一!」
「わかりました」
「ありがとう!助かるわ」

ニッコリと笑った百枝はそう言い残して選手達の元へ走って行った。そんな百枝の姿を目で追いながら、名前は阿部の姿を探して近付く。

「隆也」
「何だ?」
「自転車かして」
「どっか行くのか?」
「うん。先に県大の試合会場に行っといてって監督に言われたの」
「ふぅん…ほれ、鍵」
「ありがとう」

昨晩、名前は阿部の家に泊まったため自転車がない。朝来るときは阿部の後ろに乗せてもらったので、試合会場に行くには自転車を借りるしかなかったのだ。
そういうわけで、阿部から自転車の鍵を借りた名前は早速試合会場へと足を運んだ。





「三塁側かな…あー…浦総埋まってる」

試合会場に着いた名前は空いてる場所がないかと辺りを見回した。しかしどう見ても浦総の援団しか見当たらず、仕方なく空いている武蔵野側へ向かうことにした。

「みんなもうすぐ来るかな……ッ、」
「あ、すんません!」

歩いてる途中で名前はいきなり現れた人に思い切りぶつかってしまった。崩れた荷物を持ち直しながら、慌てて顔を上げる。

「私こそすみません。大丈夫でしたか?」
「あぁ、俺は大丈夫…と言うか本当すんません」
「いえ、前方不注意だった私が悪いんですから」
「いやいや、いきなり立った俺が悪いですよ」
「そんなの気にしないでください。本当にすみませんでした。…では」
「はい……」

どこかで見たことがあるような気がしたが、長居する訳にもいかずペコリと頭を下げて名前はその場をあとにした。



そんな彼女を呆然と見つめる男が一人。その男は今し方ぶつかった女子生徒の後ろ姿を見えなくなるまで見送った後、静かにその場に腰を下ろした。途端に横からツンツンと袖口を引かれ、男はようやく我に返る。

「準太、お前にしてはやけにテンパってたな」
「そりゃテンパりますよ和さん。だって…」
「あの子めちゃくちゃ可愛かったっすね!」
「…利央」

自分が言おうと思っていたことを横取りされ、若干不機嫌になる準太。そんなことは気にせずに名前のことを喋っている利央はとても楽しそうだ。

「あの子いくつなんですかね?」
「俺年上か同学年だと思ったけど…」
「いや、多分年下だと思うよ」
「そーなんすか!?」

利央と準太で名前の年齢について話し合っていたところで和己が割り込む。

「だって落ち着いてるし…とにかく雰囲気が大人っぽかったですよ」
「ま、俺の勘だから」
「ふぅん…」
「あれ、もしかして狙ってンスか?準さん」
「ばか。でも…また会えたらメアドくらい交換したい…」
「へーえ」

準太の反応を面白がる和己と利央。二人でコソコソ話し出す。

「んだよ!利央だってまた機会があったら交換くらいしたいだろ」
「当たり前っすよ!あんな可愛い子滅多に会えないんですからね!」
「だろ?」

なんだかんだ言いつつ結局同意見なんだな、と二人を見守っていた和己だけが密かに笑みをこぼした。







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