×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

≫投手の条件1





『九番ピッチャー叶君』

ついに叶の名が呼ばれた。
三橋はドキドキしながら阿部のサインを待つ。一応用心してボールから入ろうというサインを確認して三橋はまっすぐを外へはずしたが、このボールは跳ね返され、ファール。そして二球目はシュート。なんとかそれでアウトを打ち取り、三橋は人知れず安堵の声を洩らしていた。
そのあと交代して叶が投げる。しかし今日初めて一球目が外れた。

「監督!叶君さっきのスライディングが効いてますよ!」

さっきシュートを打って、一塁にヘッドスライディングしてから叶は明らかに調子がおかしくなってきていた。それを察知した名前は素早く監督にかけより、耳打ちする。

「よし、ここしかない」

監督は「待て」の指示を出した。読み通り叶はフォアボールで、ランナーが一人出た。その後の阿部のバントでワンアウト二塁。そして次は田島だ。

「あ、いいトコに落ちた!」

さすが田島。一球目でいいところまで飛ばしてくれた。そのおかげで先取点が入る。そして次の花井がストレートを打ち、田島がホームへと帰ってきた。が、この回は二点でストップ。

「いいよいいよ!良く攻めた!さぁ、大事なのはこの裏!しっかり守るんだよ!」

監督の掛け声でその場の雰囲気が切り替わる。元気よく飛び出して行った選手を送り出したあと、名前は阿部を呼び止めた。

「隆也!」
「なんだ?」

立ち止まった阿部にてってっと近寄る。

「防具はちゃんと着けないと」
「ああ、悪い」

名前はしゃがみこみ、阿部の足の防具を着け直す。阿部がもう片方の足の防具を着け直すために体を屈めたその隙に名前は本来の目的を果たす。

「監督から伝言」
「え、」
「この回は四番よりもその前の打者に集中してね」
「…わかった」
「それから、三橋君をよろしく!よし、行ってこーい」

阿部の背中を勢いよく叩き、送りだす。走りざまにお礼を言う声が聞こえ、名前はにっこりと笑い返した。









そうして五回の表、裏が終わり六回の表。先頭の沖は三振、二人目の阿部が四球で出塁し一死一塁で四番の田島が回ってきた。しかしせっかくのチャンスなのに敬遠されてしまいランナー一・二塁。そのあと花井が打ちとられ、あっさり交代となった。



七回の表。
七番泉サードゴロ
八番水谷キャッチャーフライ
九番三橋三振

叶もなかなか崩れない。

「すごいな…二人とも」
「ん?誰が?」

独り言のはずだったのだが、監督に聞かれていたようだ。名前は少し慌てた仕草をしたが、一呼吸おいて、口を開く。

「叶君と三橋君です」
「へぇ…どうして?」
「私…投手の条件ってまずは一試合投げきれるくらい投げるのが好きなことだと思ってます。その気持ちがあの二人…特に三橋君からは強く感じて…すごいなって思いまして」
「そうね…」

監督は聞き終わったあとにそう呟いた。言葉は少ないが、監督の表情には色んな気持ちがこもっている。それが何となく名前には読み取れた。



織田に回ってきた。織田は監督に言われた通りに一球目は目を閉じて、二球目は迷わずバットを振った。ボールは遠くへとび、三星に一点。そして織田は三塁まで来ている。そして挙げ句の果てには畠がホームラン。
ガクリと地面に膝をついた三橋。三橋の方が崩れるかと思われたがなんとか持ちこたえ、次の打者はアウトにとった。
この回が終わり選手がベンチへ戻ってくる中、三橋だけがベンチに入らず外で蹲っていた。大いに責任を感じているようだが三橋は悪くない。三橋はよく投げている。誰も攻めたりはしないのに。

名前は三橋に駆け寄ろうとしたが、監督に呼ばれ、しかたなくベンチへ戻った。

「田島君を敬遠させないためにはどーしたらいいと思う?」

栄口、沖、阿部を前に監督はこう聞いた。勿論答えは塁に出て、塁を埋めることだ。狙うなら、投手しかいない。


『一番、セカンド栄口君』
真剣な眼差しで打席に入る栄口。そんな栄口のおかげでピッチャーにはうまくプレッシャーが与えられた上に、フォアボールで出塁することができた。二番の沖はデッドボールで出塁。そして三番の阿部は、打ったボールが上手く二遊間を抜け、ランナーそれぞれ進塁。ノーアウト満塁で四番、田島が回ってきた。
一球目、フォークだったのだが随分落ちたようで田島が空振り。二球目も同じ球がくるだろうと監督がサインを出すが、田島は監督の方を見ない。

「…田島君にここは任せるしかないね」

今の田島は誰が見てもかなり集中している。それを理解して、監督は頷いた。




三球目。
またあのフォークかと思ったがなんとチェンジアップだった。田島はもう振りに出てしまっている。もうダメだ…そう思った時。

田島はなんとか持ちこたえ、ボールは深く落ちた。だがそのおかげで一点入り、同点まで追い付いたのだった。

*prev | next#


back