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とは言ったものの。

「…さてどうすっか」

次の日の朝練後、席に座って阿部は今日の予定を立てていた。今日は夕方はミーティングだけだ。買い物に行くなら今日しかない。

「阿部ー」

どこに行こうかと考えを巡らせていると、携帯を片手に花井が阿部の元までやってきた。メールの最中かと思ったが、チラリと見えたそのディスプレイには電話のマークが。誰かと電話してる途中のようだった。

「何?」
「今日お前も買いに行かねーか?お返し」
「お前と二人で?」
「ちげーよ、今日行ける奴皆で。今泉と話しててさー店も泉が大体の目星付けてるらしいから」
「…行く」
「よし。…あ、泉?阿部も行くってよ。ああ、わかった。じゃあまた後でなー」

電話を切った花井は、携帯をポケットに仕舞いながら、見上げてくる阿部に視線を移した。

「つーことで、今日ミーティング終わったら速攻で出発な。名字はうまく撒いといて」
「おー」

上手く撒けと言われても、もう彼女には自分の悩みの原因を知られてしまった為、そう簡単に隠し立て出来るようなものでは無かった。しかし他の人達のために、とりあえず何と言い訳しようか阿部は考えを巡らせることにした。




そうして迎えた放課後。運がいいことに名前の方から「先に帰っておいて欲しい」と要望があった。なんでも、監督と話し合う事が多々あるんだとか。これは好都合だと、西浦ナインは早速自転車を走らせた。

「店どの辺なんだ?」
「すぐ着くよ。あ、ほらあれ。最近出来たばっかなんだと」
「へぇー」
「…つーか…男がぞろぞろと入ったら浮かねー?」

薄い反応の阿部とは裏腹に、花井は心配そうに入り口を見つめた。案内人の泉に続いて、順番に駐輪スペースに自転車を止めながら、他のメンバーも花井の言葉に「あ……」と動作を止める。

「別にこの時期だし平気だろ」
「そうなのか…?」
「いーから、入ろうぜ」

荷物をさっさとおろして、阿部が先頭きって店内へと足を踏み入れた。
店内は、案の定ホワイトデー仕様になっており、多種多様なお菓子が並んでいた。そのお店は手作りのお菓子を中心に扱うお店で、隅の方には少しだけだがケーキも並んでいる。その反対側にはアンティークな雑貨から、ラッピングに使えそうな物まで取り揃えてあり、全体的に落ち着いた大人っぽく可愛らしい雰囲気だった。

「…こんな店よく知ってるねー泉」

店内をキョロキョロ見渡しながら栄口が呟いた。少し緊張気味である。

「兄貴の彼女がすげー推しててな」
「そーだったのかぁ」
「なーなー俺これがいい!これにしよーぜ!」

納得顔で商品を選び始めた栄口の横で、田島が何やら背が高い物を指差して声を上げた。その声に近くにいた泉と栄口、花井が一緒に見上げる。

「ばか、そりゃ売り物じゃねーぞ」
「そーなの?」
「『見本です、ご予約承ります』って書いてあるだろ」
「ほんとだ」
「それになぁ、こんなのやれるかよ!」

泉と違って少し焦ったようにその「背の高い物」を見上げていた花井が、眉を顰めた。

「なんでだよ花井」
「値段もそうだけどこんなでけェのやったら名字が困るだろ」
「えー俺なら嬉しいけどな。つか、これ何よ?」
「知らねーで言ってたのか?」
「あははっ、マカロンタワーだよ」

栄口が穏やかな笑みでプライスカードを指差しながら答えた。そのカードにはマカロンの種類や数、それに応じて値段も変わってくる事などが細やかに書かれている。とはいっても今回はこれには用事が無いので、田島以外はやれやれと本来の目的を果たすために散って行った。ただ田島だけがまだ名残惜しそうに見つめていたが、最終的にはちゃんと諦めて三橋の側までかけて行った。



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