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あれから約三十分。皆で彼是と意見を言い合ったのち、ようやく買い物を終わらせた。阿部はそんな中一人黙々とお返し選びに集中していたが、それでも皆より時間がかかってしまった。しかし目的は果たせた。皆の分は代表で花井が渡す事となり、今日はその場で解散となった。




次の日の夜。名前の後から入浴を済ませた阿部が彼女の部屋へ戻ると、今日花井から受け取ったであろう物を楽しそうにテーブルに広げて眺めていた。

「…それ、今日貰ったやつか」
「うん、花井君達からのやつ。他にも千代ちゃんからのもあるよ」
「そのやたら可愛らしいラッピングのやつ?」
「いや、これは花井君家から別に」
「花井?」

気持ち悪いな、と表情を歪める阿部。それにクスリと笑うと、名前は可愛らしいラッピングの箱をひらひらとさせた。

「これは、花井君の双子の妹ちゃん達から。花井君、私があげたチョコ家に持ち帰ったら妹ちゃん達にもあげる羽目になったらしくって」
「それでその妹達も律儀にお礼してきたわけだ」
「そうそう。顔見たことないけど嬉しいなーいつか会えるといいんだけど」
「あいつらからのはどうだったんだ?」
「美味しいよー」
「もう食べたのか」
「うん。量がね、結構あるから…消費しきれるかどうか…」
「まぁ、九人合わせてのお礼だからな…量が多くなるのも頷ける」
「隆也も食べよ」
「ああ」

名前に促され、彼女の横に腰を下ろした。すると目の前に広がるお菓子の山。改めてその多さを実感させられ、いつ食べ終える事が出来るだろうかと懸念した。

「…どれ食べたい?」
「何でも……いや、ちょっと待て」

普通に応答しそうになり、阿部は重要な事を忘れているのに気付いた。大事な物を、まだ渡していない。

「俺まだ渡してねぇ」
「…あ」
「……俺この間も言ったけどこういうのよくわかんねーから…ほら、これ」
「…何これ……可愛い」

阿部から受け取った紙袋から一つの箱を取り出した名前は、珍しく目を輝かせていた。長方形のその箱の表面には、いくつか丸く切り取られていて、透明のフィルムがかけてあり、そこから中身が見える仕組みになっていた。

「…これクッキー?ハートの形とか鳥の形してて可愛い」
「ああ、店員が言うにはポルボローネ?ってやつらしい」
「あっ、これポルボローネなんだ」
「それは上にホワイトチョコがコーティングしてあるんだと」
「へぇ…美味しそう…」
「お前ホワイトチョコ好きだったよな…と思って」
「覚えてくれてたんだ、ありがとう」
「たいしたモンやれなくてすまねぇな」
「十分だよ。本当…食べるの勿体無いくらい嬉しい」
「食わねぇ方が勿体無いだろ」
「そうだけどー…」

口を少し尖らせて、名前はゆっくりと包みを開けた。

「…じゃあ、いただきます」
「どーぞ」

パクリ。一つ指で摘まんで口に入れた。途端にポルボロン独特の食感が広がり、名前の顔が綻んだ。他のクッキーに比べて口溶けのいいクッキーだからこその不思議な食感。それにホワイトチョコの甘さが相俟って、とても名前好みのお菓子になっていた。

「…はぁ…美味しい」
「良かった…」

名前の反応にホッと胸を撫で下ろした阿部。彼は彼なりに、それなりに緊張していたようだ。それに気付いた名前は、クスクスと笑いながら阿部の首に腕を回した。それに阿部は一瞬驚いた表情を見せるも、左手で名前の腰に腕を回して、自分の方へ抱き寄せる。

「…ふふ、来年のお返しも楽しみにしてる」
「じゃあ俺はチョコに期待するわ」
「りょーかい」

抱き合ったまま、特に何をするわけでもないが、お互いに心は満たされている気がした。
こんな夜も悪くない。




精一杯の
(お返し)




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