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あれから水谷も交えて三人で話し合った結果、下手に何か物をあげるよりは無難な物にした方がいいというのと、名前は焼き菓子では特に嫌いな物がないということを踏まえて、結局クッキー含む焼き菓子の詰め合わせにすることになった。後は阿部が返す分を決めるだけだが、これがまた難航していた。今の今まですっかりホワイトデーの事を忘れていたくらい阿部には馴染みの無いものだし、実際あまり興味もないような人がお返しを考えるのだから当たり前と言えば当たり前かもしれない。それに、相手は名前だ。これと言って好きなブランドやお菓子の銘柄もなければ、特別好きなお菓子もない。こだわりが殆ど無いのだ。そんな人にあげる物なんて、逆に凄く悩んでしまう。

「俺は何やったらいいんだ…」
「お前にわかんねーんだったら俺たちもわかんねーよ」
「前回は何やったの?」
「前回…?」

水谷の言葉に、阿部は遠くを見つめた。

「覚えてねぇ」
「阿部にしては珍しいな」
「そうだよ、配球とかだったら気持ち悪いくらいに覚えてるくせに!」
「はぁ?あんなの覚えるのが当たり前だろうが」
「だったらお返しくらい覚えてられるだろー」
「それがなー…なんでか…もしかしたらやってねぇかも」
「マジで!?」

水谷が心底驚いたのを見て、阿部は「そこまで驚くような事なのか」と首を傾げる。そんな二人の横で花井が一人納得顔で立っていた。今までの阿部を考えて見ればそこまで驚くほどの事ではなかったからだ。

「…とりあえずまだもうちょい日があるし、色々考えてみるわ」
「おお、俺たちで相談のれそうだったらいつでも聞くぞ」
「サンキュー」
「俺達の方も、サンキューな」
「おー」

教室に響くチャイムと共に、各々は席に着くために戻って行った。




その日の帰り、阿部は案が全く出てこないまま名前と並んで自転車を漕いでいた。一瞬本人に聞いてみるかと誘惑の声が頭の中に広がったが、それではあまりにも芸が無い。とは言っても自分がそこまでクオリティの高い物をプレゼント出来るとは微塵も思っていない為、阿部は帰宅中ずっと悶々としていた。しかしそのせいでいつも以上に喋らない阿部に疑問を抱いた名前。漕ぐスピードをやや落とし、横に並ぶ形で視線を阿部に向けた。

「…どうかした?」

その声にハッとした阿部は、名前の顔を見て難しい顔をした。

「いや…」
「悩み事?」
「悩み事っつーか…まぁ…そうかもな」
「また三橋君関連とか…?」
「…そうじゃねぇんだよ。あのさ、俺前回お前にお返ししたっけ?ホワイトデーに」
「前回……ああ、貰ってないよ。あげてもいないから当たり前だけど」
「え、俺貰ってなかったっけ」
「うんあげてない。去年は何か色々重なって準備出来なかったんだよ確か」
「そうか…受験も丁度その辺りの時期だったしな」
「そうそう、バレンタインとかホワイトデーとかは二の次よ」
「…でも俺、何か貰った気がするんだよな…ああ、そうだ。ちっちゃいカップケーキみたいなの貰ったよな」
「受験が終わった記念にね、作ったやつをあげたんだよ」
「それがイベント事とごっちゃになってたのか…」

ようやく記憶がハッキリし、阿部の中で整理がついた。しかし一番重要な問題はまだ解決していない。それなのに、もう自転車は名前の家へと差し掛かっていた。

「……ね、隆也」
「ん?」

家の少し前で自転車を降りた名前。つられて阿部も地面に足をつけると、少し楽しそうに笑みを浮かべた名前が阿部の顔を軽く覗き込んだ。

「…今年のお返し、何でもいいからね。そんなに深く悩まなくても、何だって嬉しいよ」
「…ばれてるし」
「あははっ、そりゃわかるよ」
「…まぁ…だよな」
「でも意外だなー隆也が覚えてたなんて」

その言葉に「俺を何だと思ってるんだ」とうっかり返しそうになったが、花井達に言われるまで頭のどこにもホワイトデーの事が無かった為、言い淀んだ。

「…今日花井達に言われて思い出した…実は」
「…ふふ、やっぱり」
「悪ィ」
「別に何も悪くないよ。私が勝手に隆也にチョコあげただけなんだからお返しなんて強制じゃないし、そっちの方が隆也っぽくて好き」
「……お前変わってんなー」
「どこがよ」
「物好きだな、と」
「それはお互い様」
「そうか?」
「そうよ」

家の前に辿り着き、歩みを止めた。名前は楽しそうに笑みを浮かべたままだし、阿部もニヤリと笑みを零している。

「んじゃ、俺帰るわ」
「気を付けてねー」
「ああ、お返し期待しとけよ」
「あはは、期待せずに待ってる」

そう言って手を振る名前に片手を上げて返し、阿部も自宅へ戻って行った。





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