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ついこの間騒がしい行事が終わったと思ったら、すぐ同じような日が近づいて来た。チョコレートを貰ったお返しの日、そうホワイトデーだ。あと丁度二日でホワイトデー当日を迎えるのだが、街中は勿論の事、学校内でもなんだか落ち着かない雰囲気が漂っている。大体は女子同士で交換しあっているが、男子も男子で、お返しを何にするか決めかねている人も多いようだ。
勿論西浦ナインもそのお返しをする側だった。先月、名前から貰ったチョコレートの事を思い出したのだ。

「ーーー…べ!…阿部!!」
「…んあ?」

いくら呼んでも返事が無い阿部に、水谷は彼がノートを広げている上に、バン、と両手を置いた。

「んあ?じゃないよもー、さっきからずっと呼んでたのに」
「悪ィ、昨日名前から来週新しい練習メニュー加えるって聞いて、ノート借りて見てたんだわ」
「…え、まだ加わるの?」

引きつった笑みを浮かべる水谷に、阿部は呆れ顔で頬杖をついた。

「たりめーだろ、四月に入りゃ解禁になって練習試合だって組むだろうが。あと二週間もしねぇうちに春休みに入る。思いっきり体力作り出来る最後のチャンスじゃねぇか」
「デスヨネー……」

相変わらず野球バカだな、と水谷は密かに思った。が、しかし。今日はその事で話をしに来たわけではないのだ。水谷は阿部に流される前に話を戻そうと、意を決してもう一度彼の名を呼んだ。

「…阿部!」
「なに」
「練習の事も大事だけどさ、今日はちょっと別の事で相談があってさ」
「…俺に?」
「ああ、花井と話してお前に聞いた方がいいって結論に至ったんだよ」
「花井も絡んでんのか」
「…名字の事で!」
「はぁ?」

全く見当もつかないのか、阿部は表情を歪めた。そんな阿部に「何でこんなにも鈍いんだ」と水谷は言い淀み、たまたま近くを通った花井を呼び止めた。

「花井、助けてー」
「どうした?」
「阿部ってば全然察してくんないんだよ!」
「ああ、あの事か。ハッキリ言わねーと伝わらないだろ、特に阿部には」
「ええー、そんなモンなの?」

元々水谷と話をしていた事もあって、花井はすぐに何の事か理解した。その上で、水谷に代わって阿部に話を振る。

「お前ってホワイトデーのホの字も頭にねーのな」
「ホワイトデー…?ああ、そんな時期か…え、何。お前ら名前にお返しするのか?」
「そりゃバレンタインに貰ったしな。つっても、一人一人が返してもかえって迷惑だろうからな。皆で金出し合って一つの物買おうって話になったんだよ。あ、阿部は別個でするつもりならこっちには参加しなくてもいーぞ」
「……いや、俺準備どころかすっかり忘れてた」
「えっ、マジで頭に無かったのか!?」

冗談だろ、と花井は阿部に詰め寄ったのだが、生憎そんな冗談を言うような人ではない。

「はぁー…じゃあ俺らと一緒にするか?でもそれじゃあなぁ…」
「いいよ、俺は別でするから」
「そうか?ならさ、ちょっと参考までに聞きたいんだけど、名字って何が好きなんだ?」
「…何がって…何が?」
「お返しだよお返し!今その話してただろーが!」
「んなこたーわかってるよ。お前なァ、お返しって一口で言うけど、めちゃくちゃ範囲広いじゃねーか。返事に困るぞ」
「…ん…?……あ、あー…そうか、お返しが絶対菓子って決まってるわけじゃねーのか…だよな」

初めこそは、全く理解が出来ないといった表情で首を傾げる花井であったが、阿部の言葉をようやく理解して、ポン、と手を合わせた。ホワイトデーのお返しイコール、クッキーもしくはそれに準ずる何か(焼き菓子等)などという法則が花井の中では今だ健在で、そうではないのだと、今日初めて思い知らされて益々悩まされることとなった。
ホワイトデー。言葉にするのは簡単だが、侮ってはいけない。今やチョコレートのお礼に雑貨やアクセサリー、チョコレート等を返したりする人がいるという話もザラにある。そんな沢山の選択肢の中から、貰った物や相手への気持ちなどなど、それ相応のお返しをしなければならないのだ。普段そういう事とあまり関わりを持たない西浦ナインにとって、これほど難しいものはなかった。



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