そこにいたのは、美紗と同じ、二十代前半ほどの青年。
 男にしては長めの黒髪に漆黒の瞳。
 見た目は至って普通の日本人であるが、妙な違和感を覚える。
(彼は、一体……?)
 怪訝に思いながら青年を見つめていると、彼はわずかに口の端を上げた。
「俺の正体なんてどうでもいい。
 それよりもお前だ。――お前、相当性格悪いね」
「なっ……!」
 のっけから失礼極まりない発言に、美紗は開いた口が塞がらなくなった。
 青年は構わず続けた。
「俺も誉められた性格じゃないけどさ、さすがにお前には敵わないね。まあまあ、俺の中に嫌な感情が流れ込んでくるわで……。
 それに、何悲劇の主人公ぶってんだか……。
 お前の場合、人を羨む以前に、その醜さを綺麗さっぱり洗い流す必要があるんじゃない?」
(なっ……何なのこいつ!)
 言いたい放題の青年に、美紗の全身がワナワナと震えている。
 そんな事はないと言いたい。
 しかし、否定出来ない自分がいる。
 美紗は黙って俯いた。
「――だから、本人に訊けばいいじゃない」
 黙りこくってしまった美紗に呆れたように、青年は先ほどの言葉を繰り返した。
 美紗ははっと顔を上げる。
「訊くって……どうやって……?」
 美紗が訊ねると、青年は「そうだなあ」と目を宙に彷徨わせながら顎を擦った。
「一番手っ取り早いのは、夢の中に入る事じゃない?
 現実の世界では、お前、そんな簡単な事も訊けないんだろ?」
「か……簡単って……」
 身も蓋もない言い方に、美紗の頬が痙攣した。
 だが、青年は全く意に介した様子も見せず、淡々と続けた。


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