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結婚式が終わってから、美紗は重い足取りで帰路に着く。
滅多に着る事のない余所行きの薄紫のドレス。
その上にはコートを纏っているものの、ストッキングだけの脚は膝下から剥き出しになっていて、歩くほどに感覚がなくなりそうなほど寒い。
更に慣れないヒールを履いている上、両手にはバッグと引き出物の入った大きな紙袋を持っているため、気を抜くたびに躓き、危うく転びそうになった。
(こんな所でコケたら笑い者だわ……)
美紗は荷物を何度も持ち直し、間抜けな姿で転ぶ自分を想像しながら苦笑いする。
幼い頃であれば、彼が真っ先に駆けて来て、「だいじょうぶ?」と言いながら美紗に手を差し伸べてくれたであろう。
しかし、今となっては、それも叶わぬ夢なのだ。
近くにいたはずなのに、ずっと繋がっていると信じていたのに、彼にはその想いが届く事がなかった。
(私に足りないのは、何だったの……?)
誰にともなく、美紗は心の中で問い質す。
彼が選んだ女性は、決して見られないほどではないが、取り立てて美人というわけでもない。
性格も控え目だし、美紗だけでなく、周囲の者も、「何故?」と首を傾げていた。
(彼の本心が……知りたい……)
悔しさを噛み締めながら、美紗はバッグと紙袋を持つ手を強く握った。
と、その時だった。
「なら、訊いてみれば?」
美紗の背後から、投げ遣りな低い声が聴こえてきた。
美紗は驚き、その場にぴたりと立ち止まると、ゆっくりと後ろを振り返った。
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