「ん……う……っぐ」

音を立てないように、静かに静かにもがきながら、唇を噛む。

"おさまって"

"お願い……収まって"

涙に濡れた眼で願う。

──このままだと、我慢しきれなくて声が出てしまう。
だからお願い、止まって。
今だけでいい、落ち着いて。

だって、父さんも母さんも久し振りに熟睡してるのよ。
よほど疲れていたんだわ。

──お願い、お願い。
あと少し、あとちょっと。
朝まで──…。



片手でシーツを握りしめたまま、もう片方の手を口元へと運ぶ。

少し経つと手が震えてずり落ちてしまうけれど、何度も何度も運び直して口を押さえた。



"もう少しだわ"



"もう少し。もう少しだから"



* * *



「………」

どれくらい経過したのだろう。

あれから少しか…
もしくは、長い時間。

今回の痛みは、なんとか堪えることができて。

「はっ……はぁ。…ふ……」

呼吸を戻してから深呼吸すると、仰向けになって四肢を伸ばし、脂汗の滲んだ額に手の甲を当てる。

小さく小鳥のさえずりが聞こえて、夜明けが来たことを感じた。

「あら……」

小さく小さく、呟く。

けっこう長いこと我慢していられたのね、と。

体力は無くなったけれど、気力は少し増えたかな?

ちらりと考えて、微笑んでみる。



──よかった。
起こさないで済んだ。
叫ばないで済んだ。
がんばれた。
よかった…



ふっと体の力が抜けて、眠気に襲われて、そのまま目を閉じる。

一瞬、あまり考えたくないことを考えて、それを振り切るようにして眠ろうと努めた。



"だいじょうぶ"

そう、大丈夫。
また、きっと起きられる。
大丈夫。
マルタンさんが来てくれるって言ってたじゃない。
会ったら話すことだって、もう決めてあるんだから。
大丈夫、大丈夫よ。

でも…私がずっとこんなだったら、お父さんとお母さんが病気になってしまいそう…。
私が早くいなくなれば、二人とも楽に……

……ううん。
やっと三人で暮らせるようになったんだもの。
私も早く元気になって、前みたいに笑って過ごすの。

大丈夫よ。
世の中、何が起こるかわからないわ。
父さんだって帰って来られた。
だから私だって、もしかしたら…
もしかしたら、また元気になれるかも…。


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