4
『――あのさ……』
彼の声を耳にし、我に返る。
と同時に、消えたのではなかった事を認識し、ほっと胸を撫で下ろした。
そんな私の想いを知ってか知らずか、彼は続けた。
『実は俺……奈菜子にどうしても伝えたい事があったから……』
彼の言葉に、一瞬、不安が過ぎった。
そんな事はないと信じたい。
しかし、言いにくそうにしている声を耳にすると、もう、悪い事しか考えられない。
突然電話をしてきた事もそうだ。
――もう……これで終わり……
そう思った時だった。
『――ごめんな……』
柔らかな声が、耳に飛び込んできた。
『今だから言うけど……本当は俺、あの時、お前にも一緒に着いて来てもらいたかった。
でも、お前はお前の道があるのだろうと思ったから、無理強いも出来なくて……。
それに、奈菜子は優しくて強いから。俺には相応しくないのではとも考えていた。
だから、ここ最近はずっと、わざと距離を置いてみた。――こうでもしないと、俺はずっと、お前を忘れられないから……』
私は耳を疑った。
まさか、彼も不安を抱えていたとは、思いもよらなかったのだ。
彼の想いに胸が熱くなる。
そして、ほんの一瞬でも疑ってしまった自分に嫌悪感を抱いた。
「――ごめんなさい……」
気が付くと口にしていた。
だが、これ以上は何も言えなかった。
ただ、出てくるのは嗚咽のみだった。
『奈菜子……』
電話越しに、私の名を呼ぶ優しい声が聴こえてきた。
『頼むから、泣き止んでくれないか……?
これ以上、不安にさせないと誓うから……』
彼の言葉に、涙が更に溢れ出てくる。
哀しいのではない。
嬉しいからこそ、涙が止まらなかった。
- 37 -
しおりを挟む
[*前] | [次#]
gratitudeトップ 章トップ