「へえ……。そんな事があったんだあ!」
 私の真向かいに座っている少女は、胸の前で両手を組み、瞳を輝かせている。
 ちなみに彼女は私の娘。
 今年、晴れて高校生となる。
 あの日から十七年。
 私と彼は一年近くの遠距離恋愛を経て、永遠の愛を誓い合った。
 信じる事は難しい。
 しかし、苦難を乗り越えたからこそ、こうして最高の幸せを手に入れる事が出来た。
 愛の結晶である彼女もまた、素直で大らかな子に育ってくれた。
「ねえ。お母さん」
 彼女――真菜は大きな瞳で、私をじっと見つめている。
「私、お父さんとお母さんの娘に生まれて良かった」
 突然の言葉に、私は一瞬驚いた。
 だが、それは次第に喜びへと変化した。
「ありがとう」
 私が言うと、真菜は嬉しそうににっこりと笑顔を見せた。
 やはり、彼女も彼の子だ。
 笑った顔など、特によく似ている。
 私も微笑ましい気持ちになり、自然と笑みが零れた。
「さてと」
 私は時計を確認すると、その場から立ち上がった。
「そろそろ、夕飯の支度をしないとね。早くしないと、お父さんも帰って来ちゃうだろうから」
「あっ!それなら私も手伝うよ」
「あら……」
 またしても、真菜の意外な言葉に目を瞠る。
「珍しいわね。いつもなら、『手伝いなんて面倒臭い!』って言い張るのに……」
「きょ、今日ぐらいは、手伝ってもいいかなあって思っただけだよ」
 真菜はそう言いながら、口を尖らせる。
 その姿を見ながら、私は思わず苦笑を浮かべた。
「それじゃあ、きっちりとお手伝いしていただきましょうか」
「了解!」
 私が言うと、真菜は強く頷いた。


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