5
「へえ……。そんな事があったんだあ!」
私の真向かいに座っている少女は、胸の前で両手を組み、瞳を輝かせている。
ちなみに彼女は私の娘。
今年、晴れて高校生となる。
あの日から十七年。
私と彼は一年近くの遠距離恋愛を経て、永遠の愛を誓い合った。
信じる事は難しい。
しかし、苦難を乗り越えたからこそ、こうして最高の幸せを手に入れる事が出来た。
愛の結晶である彼女もまた、素直で大らかな子に育ってくれた。
「ねえ。お母さん」
彼女――真菜は大きな瞳で、私をじっと見つめている。
「私、お父さんとお母さんの娘に生まれて良かった」
突然の言葉に、私は一瞬驚いた。
だが、それは次第に喜びへと変化した。
「ありがとう」
私が言うと、真菜は嬉しそうににっこりと笑顔を見せた。
やはり、彼女も彼の子だ。
笑った顔など、特によく似ている。
私も微笑ましい気持ちになり、自然と笑みが零れた。
「さてと」
私は時計を確認すると、その場から立ち上がった。
「そろそろ、夕飯の支度をしないとね。早くしないと、お父さんも帰って来ちゃうだろうから」
「あっ!それなら私も手伝うよ」
「あら……」
またしても、真菜の意外な言葉に目を瞠る。
「珍しいわね。いつもなら、『手伝いなんて面倒臭い!』って言い張るのに……」
「きょ、今日ぐらいは、手伝ってもいいかなあって思っただけだよ」
真菜はそう言いながら、口を尖らせる。
その姿を見ながら、私は思わず苦笑を浮かべた。
「それじゃあ、きっちりとお手伝いしていただきましょうか」
「了解!」
私が言うと、真菜は強く頷いた。
- 38 -
しおりを挟む
[*前] | [次#]
gratitudeトップ 章トップ