3
静まり返った部屋の中に、けたたましい電子音が響き渡っていた。
私ははっとする。
起きていたつもりだったのだか、いつの間にか意識が遠のいていたらしい。
しかも、手には携帯が握られたままになっている。
携帯は相変わらず鳴り続けている。
――まさか……!
逸る気持ちを抑えつつ、私は携帯を開く。
メールではない。
電話の着信だった。
待ち焦がれていた彼の名前が、間違いなく表示されている。
――まさか、電話が来るなんて……
嬉しさと戸惑い、半々の気持ちを抱きながら電話に出た。
「――もしもし……」
『――奈菜子……?』
久しぶりなせいだろうか。
彼の声が、妙に懐かしく聴こえる。
『元気だった……?』
「うん。雅行は……?」
『俺も、何とかやってたよ』
「そう……」
ここで、会話が途切れてしまった。
多分、彼は他に何を言うべきか考えているのだろう。
現に私がそうだった。
言いたい事はある。
しかし、あまりにも多過ぎて、伝えたい言葉が出てこない。
気まずい沈黙が流れる。
携帯の向こう側からも、息遣いすら聴こえてこない。
もしかしたら、彼はどこかへ消えてしまったのではと、おかしな錯覚に陥ったほどだった。
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