容浚は空を仰いだ。
 荒地にはそぐわない、どこまでも澄んだ青空。
 飛び交う小鳥達の囀りも、平和そのものだ。
 彼は空から視線を外し、再び荒野に目をやる。
 決して背けてはいけない現実。
 彼もまた、数多の命を奪った張本人なのだ。
(それなのに、俺だけ生きているなんて、何とも皮肉な話だよな……)
 その場に跪きながら、ゆっくりと瞳を閉じる。
 そして、なす術もなく命を散らせた彼らに、深い祈りを捧げた。
 家族や友人達の面影が、浮かんでは消える。
「――美澪(みれい)……」
 容浚はぽつりと口にした。
 誰よりも愛おしい恋人。
 今はこの地のどこかで、永遠の眠りに堕ちている。
「美澪……」
 もう一度、彼女の名を呼ぶ。
 答えなど返ってこない。
 分かっているのに、呼ばずにはいられなかった。
 と、その時だった。
 少し離れた場所に、人影らしきものが揺らめいていた。
 最初は幻覚かと思った。
 だが、よく目を凝らして見てみると、確かにそれは人だった。
(――誰が、こんな場所に……)
 容浚は怪訝に思いながらその場から立ち上がり、一歩、また一歩とそれに近付く。
 ぼんやりとしていた人影も、次第にはっきりとしてきた。


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