3
容浚は空を仰いだ。
荒地にはそぐわない、どこまでも澄んだ青空。
飛び交う小鳥達の囀りも、平和そのものだ。
彼は空から視線を外し、再び荒野に目をやる。
決して背けてはいけない現実。
彼もまた、数多の命を奪った張本人なのだ。
(それなのに、俺だけ生きているなんて、何とも皮肉な話だよな……)
その場に跪きながら、ゆっくりと瞳を閉じる。
そして、なす術もなく命を散らせた彼らに、深い祈りを捧げた。
家族や友人達の面影が、浮かんでは消える。
「――美澪(みれい)……」
容浚はぽつりと口にした。
誰よりも愛おしい恋人。
今はこの地のどこかで、永遠の眠りに堕ちている。
「美澪……」
もう一度、彼女の名を呼ぶ。
答えなど返ってこない。
分かっているのに、呼ばずにはいられなかった。
と、その時だった。
少し離れた場所に、人影らしきものが揺らめいていた。
最初は幻覚かと思った。
だが、よく目を凝らして見てみると、確かにそれは人だった。
(――誰が、こんな場所に……)
容浚は怪訝に思いながらその場から立ち上がり、一歩、また一歩とそれに近付く。
ぼんやりとしていた人影も、次第にはっきりとしてきた。
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