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 しばらくして、美紗もやっと落ち着きを取り戻した。
 青年から身体を離し、彼を見上げる。
「もう、大丈夫そうだな」
 青年は笑みを浮かべながら、美紗を見つめる。
 夢に入る前までに見せられたような皮肉った笑みではなく、温かく包み込んでくれるような微笑であった。
(何か調子狂うわねえ……)
 美紗は複雑な思いで、青年を見返す。
 だが、決して嫌な気はしない。
 ずっと想い続けてきた人にきっぱりと振られ、存分に泣いたら、気分も晴れた。
 これからは一人でも頑張れる。
 そう心から思えた。
「ところで」
 美紗は初めて逢った時からの疑問を、青年に投げかけた。
「あんたって、本当に一体何者なの?
 変な力があるって事は、どう考えても普通の人間じゃないわよね?」
「――そうだな……。確かに普通じゃないが……。
 でも、ただじゃ教えられないな」
「は? 何を勿体ぶってんの?」
 美紗が怪訝に思いながら青年を軽く睨むと、彼はつい今しがたまでの優しい笑みを引っ込め、美紗の顎に手を添えながら悪魔の微笑を浮かべた。
「なっ……何を……!」
「何って、見たまんまだよ。
 キスの一つもしてくれりゃあ、俺の正体を教えてやってもいいんだぜ」
「ばば……馬鹿言ってんじゃないわよ!」
 美紗は平手打ちを食らわせようとしたが、青年はあっさりとそれを見切り、彼女から素早く身体を離した。
 美紗の平手は、寒空の下でブンと空を切った。


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