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「……ったく、冗談も通じないんじゃ話にならないな」
 少し離れた場所で、青年は苦笑いしている。
「それにお前、隙があり過ぎだ。もうちょっと、警戒心ってものを持たないと、いずれ悪い男に騙されちまうぞ」
「煩いわね! 余計なお世話よ!」
「あーあー……そんなに怒鳴るな。
 分かった分かった。何かあったら、俺がお前の所まで飛んで来てやる」
「は? 何わけの分からない事を……」
 そう美紗が言いかけた時、眼前に光が現れた。
 深夜、夢の中に入った時と同じ光景である。
 美紗はやはり、眩しさに耐え切れず、同様に目を閉じてしまう。
「お前の事は、これからもしっかりと見ておく。
 だから、心配するな……」
 青年の声が、少しずつ遠ざかってゆく。
 何が起こっているのかは分からない。
 ただ、青年は〈帰るべき場所〉へ帰っているという事だけは確信出来た。
 光が失せると、青年の姿も忽然と消えていた。
 青年が一体何者で、何のために美紗の前に現れたのか。
 疑問を残したまま青年はいなくなってしまったが、今後、もしも美紗の前に現れる事があったとしても、決して正体を明かしてはくれないだろう。
(さっきの事を考えれば、『交換条件だ』とか言って、キスを要求してきそうだし……)
 美紗は青年が再び現れた時の事を想像しながら、思わず苦笑いした。
 だが、美紗の中で、ゆっくりとではあるが何かが変わり始めている。
 まだ、これという確信はないのだが。


The end


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