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あれから美紗と青年は、夢の中から現実へと舞い戻った。
夢の中ではあまり時間が経っていないように感じたが、こちらの世界では、既に辺りがうっすらと明るくなりかけている。
「もう、朝なんだね」
美紗がポツリと呟く。
「立ち止まっている間にも、時は確実に流れている。
私も、ちゃんと前を見て進まないといけない、かな……」
「――おい」
「あーあ! やっぱりあんたの言う通りだった!
私は最低最悪の女だよ! 好きな人の幸せを願う事すら出来ないなんてさ!
こんな私、誰か消し去ってくれないかなあ!」
「おいっ!」
青年の呼びかけに無視を貫いていた美紗に痺れを切らし、青年が怒鳴った。
「お前、そんなに自分を貶めるな。確かに、俺はお前に対して、性格が悪いとは言ったが、俺は別に、お前は決して悪い奴じゃないと思っている」
青年はそう言うと、美紗をそっと自分の元へと引き寄せてきた。
「強がる必要はない。泣きたいのなら、存分に泣け。
我慢をしていたら、いつか、お前が壊れてしまうからな」
「が……我慢なんて……して……な……」
美紗の言葉は途中で途切れた。
代わりに嗚咽が漏れ出す。
泣きたくなどない。
そう思えば思うほど、涙は止めどなく零れ落ちる。
青年の温もりが、匂いが、美紗の心を更に強く締め付けていた。
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