「――美紗は」
 先に口を開いたのは和仁だった。
「何で、俺に固執するの?
 美紗は俺に幻想を抱いているようだけど、俺は決して、お前が思っているような男じゃない。
 俺はね、正直、美紗の気持ちが重くて仕方がなかった。安らげる場所が欲しかった。
 でも、美紗の側では決して安らげなかった。だから、あえて彼女を選んだんだよ。
 美紗に比べたら、彼女との付き合いはほんのわずかなものだけど……それでも、彼女は俺を誰よりも理解してくれている。
 酷い事を言っているのは重々承知だ。俺を恨んでも構わない。
 だから……どうか俺を、美紗から解放してくれないか……?」
 和仁の言葉に、美紗はただ、黙って耳を傾けるのが精一杯だった。
 彼は、美紗の気持ちをずっと知っていた。
 それでも応える事がなかったのは、美紗という幼なじみの存在を負担に感じていたから。
 ここまではっきり言い切られてしまっては、美紗も返す言葉が見付からない。
「――分かった」
 美紗は必死で笑顔を繕った。
「和仁の気持ち、ちゃんと聞けて良かった。
 今まで……ごめんね。そして……ありがとう……」
「――俺の方こそ……ちゃんとはっきり言っておけば……。――すまない、本当に……」
 美紗は口許に笑みを浮かべたまま、ゆっくりと首を振る。
「ううん。もう、いいよ……。
 それじゃあ、私はそろそろ行くから……。
 邪魔しちゃって、本当にごめんね」
 美紗は踵を返すと、小走りで青年の元へと向かった。


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