第3章…初仕事1
次の日から、町では夏祭りが始まるとのことだった。
一週間の間、町の中には露店が立ち並び、大同芸人のショーが続く。
そして、最終日にはメインの花火大会が行われる。
ただそれだけのことなのだが、娯楽のないこの界隈にとって、それは大変な行事だった。
遠くの村から泊まりがけで来る客も少なくない。
そのため、ルディやカパエルの働く宿屋もてんてこまいの忙しさになっていた。
「おまえ、部屋の掃除はまだすんでないのか!
もっとさっさと働いてもらわないと間に合わないぜ!
もうすぐ客が来るんだからな!
それに引き替え、あのかっぱは本当によくやってくれてる。
こんな忙しい時じゃなけりゃ、おまえなんて雇わないぞ!」
宿屋の主人は、目を吊り上げてルディに悪態を吐くと、そのまま部屋を出ていった。
「フン!ば〜か!」
主人の姿が見えなくなると、ルディはそう言いながら赤い舌を出す。
(だいたい、俺は掃除なんてほとんどしたことないんだから出来なくて当たり前だ!
…っていうか、あいつ、なんであんなになんでもやれるんだ?
手際が良いなんてもんじゃないぞ。
料理もプロ級だしなぁ…
ふだんはあんなに馬鹿なのに、働かせたら別人みたいだな…)
「カパエル、ほんわか定食2つと夏祭り定食を3つ頼むぜ!」
「かしこまりました!」
その頃カパエルは厨房で腕をふるっていた。
「本当にここの料理はおいしいわね!」
「噂以上のうまさだな!」
カパエルの料理は、大好評だった。
何日かするうち、料理を作っているのがかっぱだということがみんなの知る所となった。
宿屋の主人はそのことで客足が途絶えるのではないかと心配したのだが、意外なことに却って評判となり、宿屋には連日客が詰め掛けるようになった。
「きゃ〜〜!
かっぱちゃ〜ん、こっち向いて〜!」
「可愛い〜!!一緒に写真撮って〜!!」
カパエルは、生まれてこのかた、こんなにモテたことはなかった。
よく考えてみれば、何かの用事以外で若い女の子としゃべったことすらなかった。
カパエルは天国のようなその状況に、すっかり鼻の下を伸ばしながら、女の子達の相手をしていた。
(僕…かっぱになって良かった〜…
あぁ、幸せ……)
カパエルは、初めて体験する至福の時に酔いしれた。
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