修行5
袋に新鮮な野菜を詰め、ルディは山を降りた。
「嘘……」
十年ぶりの我が家は昔の面影を微塵も残さず、たいそう立派なものに変わっていた。
(これ、本当にうち?!)
町には何度も来たが、弟子の心得の一つに「修行を果たすまでは家族にも会わぬこと」とあったため実家には一度も立ち寄らなかったのだ。
緊張で高鳴る胸を押さえつつ、ルディは実家の扉をノックする。
コンコン!
「は〜い、どなたぁ?」
出てきたのは幼い子供達だった。
1、2…数えると子供達は全部で6人いた。
(あれ??
ここは僕ん家だよね?
この子達は一体……)
「おじちゃん、だぁれ?」
「お、おじちゃんって…僕は……」
「おやまぁ!びっくりした!
ルディじゃないか!」
「え……?か、母さんなの…!?」
そこには十年前とは別人のような、やたらとケバくなった母がいた。
「母親の顔を見忘れるなんて酷いねぇ…
ところで、ルディ、一体どうしたんだい?」
「実は、僕、今日やっと修行が終わって……」
「修行が?
……とりあえず、中へお入りよ。」
「母ちゃん、このおじちゃん、誰?」
「これはおまえ達の兄ちゃんだよ。」
「え〜〜〜っっ!」
なんと、ルディが山奥留学をしている間に6人の弟や妹が出来ていたのだった。
父親は、今、町のお土産館で働き、母は酒場で働いているとのこと。
そのおかげで、町の発展と共にルディの家も貧乏暮らしから脱出出来、念願のマイホームを建てたということだった。
「それで、おまえ、これからどうするんだい?」
「この町を出て新たな修行をするつもりなんだ。」
「そうかい。
じゃ、頑張っておいで!」
「え…!?」
(が、頑張っておいでって、たったそれだけ〜?!)
あっさり過ぎる母の言葉に、一瞬、寂しさを感じたルディだったが、すぐに別の想いにかられた。
(はっ!そうか…!
母さんは僕のためを考えて、わざとそんなに素っ気ないことを……)
「か、母さん……
母さんの想いは受け取った。
僕、必ず、一流の魔術師になって帰ってくるから…」
「……ルディ……
その野菜……」
「あ、そうだ!
これは兄ちゃんからのお土産だよ!」
「え〜〜〜野菜ぃ〜〜〜」
明らかにがっかりした様子の弟や妹達に、またルディは想う。
(そうか……
小さいおまえ達までもが僕に気を遣ってくれてるんだな…
僕の修行に出る決心が揺らがないようにと、わざと冷たくしてくれてるんだね……)
「ありがとう…!弟、妹よ〜…」
子供達がルディの熱いハグから必死で逃げようともがくことにも、感動するルディは少しも気付かなかった。
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