修行6
「じゃ、母さん、僕、行くから。
父さんにもよろしく伝えておいてね…!」
「ルディ、お待ち……」
母はそう言うと、テーブルの上に積まれた野菜の中からキュウリをつまみ、そっとルディの袋に入れた。
「せめてそれだけはあんたが持ってお行き……
頑張るんだよ。」
「ありがとう、母さん…!」
ルディは家を出ると振り向きもせずに走り出した。
それは、涙で濡れた顔を、家族に見られたくなかったから……
「ねぇ、母ちゃん。
さっきの人……本当に兄ちゃん?」
「そうだよ。」
「えーーー…
なんか、おじちゃんみたいだったよ。」
「そんなこと言うんじゃないの。
兄ちゃんは、辛い修行に耐えたからフケちゃったんだよ、きっと。」
「ふ〜ん。」
「今夜はその野菜で父さんにおでんでも作ってもらいな。
母ちゃんはそろそろでかける準備をするからね。」
*
ルディは、故郷の村を出た。
行くあても金もないが、ルディの袋の中には家族皆の愛と希望ときゅうりが詰まっている。
(みんな…待ってておくれよ…!
僕、絶対に立派な魔術師になって帰って来るからね…!)
- 98 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
中編集トップ
章トップ