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俺にも彼女の気持ちはわかるような気はする。
奥さんを失って生きる気力さえ失いかけていた兄のことを、この人はきっと懸命に支えていたのだと思う。
いつの日か、また元の元気な兄に戻る日を夢に見ながら、離れていてもずっと兄のことを想っていたことだろう。
そんな時に、突然、亡くなった義姉が生き返り……
だけど、その命は消えかかったままの儚いもの。
それを悲観した兄は、愛する妻と共に自ら命を断った……



(そんなの惨過ぎる…
まるで、悲しみを増すための奇蹟じゃないか!)

込み上げる憤りに、俺は思わず唇を噛み締めた。



俺も、この世界に来た事が幸せなのかどうなのかよくわからなくなっていた。
ひかりと一緒にいられることは嬉しいことだけど、そのせいで、ひかりを苦しめていることがわかっていたから。
俺が来たばかりに、ひかりはしなくても良い苦労をしている。
だけど、もっと辛いのはこれからのことだ。
ひかりは、俺を守るために一生その苦労を続けていかなければならない。
まるで、俺はひかりを苦しめるためにこの世界に来たようなものだ。
だから、いつかはひかりの傍から離れないといけない。
一緒にいられる時間はそう長くないと俺は考えていた。
俺は、この世界の者じゃないから、きっとひかりの設定のまま、一生27歳のままで年をとることもない…つまり、この世界での俺は化け物みたいなものだ。
そんな俺とひかりが一緒にいられる筈がない。

でも、そうなったら、俺は一体どうすれば良いのか?
働く事も出来ず、いつまでという期限もないままにずっと逃げ隠れしていなければならないなんて、どんなに辛い事か……きっと、俺には耐えられない。
その時のことを考えると、恥ずかしい話だが、俺は身体ががたがたと震えてくる。
怖くてたまらないんだ……



(こんな奇蹟なんて…起こってほしくなかった……)



彼女の言う通りだ。
そうすれば、俺はひかりの創作の中で、ひかりを苦しめることもなく、気楽に生きる事が出来たのに……



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