「あと少しだね。」

「早く着いて欲しいわ。」

「その通りだな…」

船の甲板で、ダルシャ、セリナ、エリオットの三人は夕陽をみつめていた。
船に乗りこんでから、剣の稽古はまだ一日もなされてなかった。
それというのも、フレイザーとラスターは酷い船酔いにかかり、動く事はおろか食欲さえもなくしていたからだった。
エリオットやセリナも全く酔わなかったわけではないが、二日目には完全に慣れた。
その様子を見て、きっとフレイザーとラスターもすぐに回復するだろうと思われたが、残念ながらそうはいかず、二人はすでにこの六日間を船室で苦しんでいた。



「ねぇ、ダルシャ。
あの二人、大丈夫かな…?」

「船酔いで死んだ奴はいない。
明日、陸地に着けば、きっとすぐに回復するさ…」

「陸地に着くまで…」

気の毒な二人のことを考え、エリオットは小さな溜息を吐いた。



「あ、あの子…」

セリナが小さな声で呟いた。
そこにいたのは、この季節には少し暑過ぎるようなコートを着込んだ少年とその両親と思われる男女だった。
少年は疲れたような表情でうっすらと瞼を開け、父親に背負われている。



「あの子、昨日もこの時間に来てたよね。
あの子も船酔いなのかな?」

「いや…おそらくあの子は病気なのだろう…
それも、かなり良くない病だ…気の毒に…」

「えっ!」

エリオットとセリナは、何も言わずただ親子の後姿をみつめていた。







次の日の昼過ぎ、船はようやくフーリシア大陸に着いた。
青い顔をしたラスターとフレイザーは、ダルシャ達に支えられながら、おぼつかない足取りで船を降りる。



「うぅ…まだ身体が揺れてる…」

「気持ち悪い…」

船を降りたからといってすぐに船酔いが治るわけもなく、一行は二人の歩調に合わせ、ごくゆっくりと歩いて行った。



「ダルシャ、どこへ向かうつもりなの?」

「とりあえず、この近くの町に行こう。
そこで願い石の話が聞ければ良いのだが…
セリナ、このあたりで石を感じるか?」

「いいえ。
感じるのはダルシャの持ってる双子石の感覚だけだから、このあたりにはないと思うわ。」

「だろうな…こんな所にあるなら船の上からでも感じるはずだものな。」

フレイザーとラスターは、そんな三人の会話も聞いてはいないようで、不機嫌な顔をしながらただ黙々と歩き続けていた。


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