「その子の家には行ってみなかったんですか?」

「それが…そういうことは一切聞いてなかったので…」

「そうだったんですか…」

「いくら待ってもその子は二度と僕の前には現れませんでした。
絶望した僕は、港へ向かいました。
故郷へ帰ろうと思ったのです。
ですが……結局、僕は船に乗ることが出来ませんでした。
この土地を離れたら、彼女との縁が完全に切れてしまうような…そんな気がして…
そして、僕は引き返し、それからずっとこの国を隅から隅まで放浪しているのです。
彼女はもう誰かと結婚して、僕のことなど忘れてしまっていることでしょう。
いえ、もしかしたらもうこの世にはいないかもしれません。
でも…この国にいればもう一度彼女と出会えることもあるかもしれません。
確率はとんでもなく低いとは思いますが…まったく諦めが悪いというか、馬鹿というか…」

男性はそう言って自嘲した笑いを浮かべた。



「いいえ、とても素敵なお話だと思いますよ。
男のロマンですね。
いつか、その女性と出会えると良いですね。」

「ありがとう、ご主人。
ところで、この町にはものすごいお屋敷がありますね!」

男性は先程通りがかった屋敷のことを口にした。
故郷の風景を彷彿とさせる珍しい外観の屋敷のことを…



「あぁ、ジョーンズ邸のことですね。
あそこは長い間空き家だったんですが、つい最近、買い手がつきましてね。
なんでも、孤児院にするそうですよ。
奇特な方もいらっしゃるもんですな。」

「買い取ったお屋敷を孤児院に…!?
それは本当に良い心がけですね。
今時、珍しいお話ですね。」



男性は、食後、再び、あの屋敷を訪れた。



(本当に懐かしい…)

男性はその風景に郷愁を感じ、その口元には小さな笑みが浮かんだ。



「あ…あの、すみません…!」

「なんだい?」

男性は庭の木の手入れをしている若い男に声をかけた。



「こちらは孤児院だとうかがってきたのですが…」

「あぁ、そうだよ。
まだ、本格的に始めてるわけじゃないけど…まぁ、準備中ってとこかな。」

「そうなんですか…
あの…些少でお恥ずかしいのですが…
気持ちだけご寄付をさせていただきたいと思いまして…」

男性は白い封筒を若い男の前に差し出した。



「そいつはありがたい。
ちょっと待っててくれ。今、責任者を呼んで来るから。」

「い、いえ、そんなことけっこうです。」

「あ、ブランドン!
ちょっと来てくれ!」

「はい、なんですか、リュックさん。」

「この人が寄付を…」

「えっ!この方が?」

リュックは封筒をブランドンに手渡した。


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