今日の試合はすべて終わった。
観客達もぞろぞろと開場を去って行く。
あと少しで、楽しかった仕事もおしまいだ。

清掃に取りかかろうとしていた時、客席の片隅に一人の男が座っている事に気が付いた。
男は熱心に小さな手帳に何かを書きこんでいる。
何をしているのかと訝しく思いながらその男を見ていると、不意に男が顔を上げた。
目が合った途端、少し微笑み、私に向かって歩いて来た。



「すまないが、ここの責任者に会わせてもらえないかな?
あ、俺はトミーってもんだ。
興行のことでちょっと相談したいことがあるんだ。」

とりあえず、トミーにはその場で待ってもらうことにして、私はハンクの部屋へその旨を知らせに走った。
ここでの仕事は急を要することが多い。
そのため、いつの間には私は何をするにも走るという習慣が身についてしまったようだ。

ハンクの部屋にはちょうどルイスもおり、伝言を伝えるとトミーを部屋に連れて来てくれとのことだったので、私はすぐに会場に引き返した。
闘技場には、自分達の楽団や劇団を出してほしいとやって来る者達も多い。
また、その手の話なのだろう。
私は会場の清掃に戻り、清掃を済ませると会場の一番後ろからステージを眺めた。
これでもう最後なのだと思うと、感慨深いものがある。
舞台の袖やこの場所から見た様々な演芸や試合が思い出される。
いつか落ちつく事があったら、またこういう仕事をしてみたいものだと私は思った。

すべての仕事が済み、ジャックや同僚の仲間に今までの礼を述べ、ハンクの部屋へ行こうとすると、中ではまだ話し合いが続いてるようだった。
扉の向こうから、先ほどのトミーらしき者の声がする。
どうやらニッキーもいるようだ。
扉の外で少し待ったが、話し合いはまだ終わりそうになかったので、私はそのまま屋敷へ戻ることにした。
ルイスには夕食の時に顔を合わせるが、ハンクとは今日はもう会えそうにない。
明日も私達は早くに発つつもりなので残念ながらもう挨拶は出来ないかもしれない。


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