004 : 最後の観客1


リュックの後釜は意外にも早く決まった。
決まったのはマシアスという中年の男だ。
私達が雨宿りをしたあの日、あの場所に面接に来ていたそうだが、自分の番が来る前にリュックに決まってしまったため面接さえ受けられなかったのだそうだ。
リュックの退職は、マシアスにとっては思いがけない幸運となったようだ。
結局、私達は週末で闘技場をやめ、この町を離れる事になった。



「マルタン、残念だな。
せっかく、こうして仲良くなれたのにな…」

「私もですよ。
ジャックさんには本当にいろいろなことを教えていただきました。
そのおかげで私もこの仕事が楽しくなって来ていた所だったので、本当に残念です。」

その言葉に嘘はなかった。
出来る事なら、私もこのまま働き続けていたい位だ。
リュックとは違い、私はただの下働きだというのになぜこんなにも楽しいのか不思議な程だが、華やかな舞台を影で支えるという仕事にはとてもやりがいを感じる。
直に人と関わるよりも、こういう地味な仕事の方が私には向いているようだ。
しかし、その仕事とも今日でお別れだ。
リングでは、グランドチャンピオンのニッキーとニッキーの先代のグランドチャンピオンのマチスが戦っていた。
今まではグランドチャンピオンは何かのイベントがないことには出場することがなかったらしいのだが、ニッキーのファン、そしてニッキー本人の要望により、先代のグランドチャンピオンとの試合を月に一度開催することになった。
しかし、グランドチャンピオンはいまだニッキーを含めて4人しかいない。
うち一人は遠い町の者なのでわざわざここへ来る事は出来ないとのことで、ニッキーと他二人のグランドチャンピオンが順番に対戦する形になっている。
グランドチャンピオン同士の闘いだけに迫力はあるのだが、これではそのうち飽きられてしまいそうだ。
かといって、グランドチャンピオンは早々現れない。
そこがルイスやハンクにとっても頭の痛い所のようだ。

マチスとニッキーの闘いは、大方の予想通り、ニッキーが勝利した。
今の所、この界隈にニッキーを破る男はいそうにない。
観客は、声をはりあげニッキーの名を叫び手を叩く。


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