think fondly of sb

「見て、陽」
「ん?」

 可愛い俺の彼女、なまえと俺の部屋で過ごしていると、彼女はふと思い出したようにアルバムを俺に見せてきた。その楽しそうな笑顔に、つい抱き締めたくなるけれど……今は我慢だ。

 言われた通り目線を彼女が指し示した写真に移すが、移した瞬間後悔する。

「うわぁ……俺の黒歴史」

 その写真には中学時代の俺が写っていた。
 写真の中の俺はどこか刺々しい雰囲気を纏っている。しかも周りには当初の友人も写っているが、見事にチャラついている人間ばかりだった。

(なんか女子にくっつかれてるし……)

 と言っても記憶が全く無いし、恐らく彼女とかでは無いのは確かだ。

「これね、夜くんに撮ってもらったんだけど、当時の私はすっごいヤキモチ妬いたんだよー」
「えっ、初耳だけど!?」
「初めて言ったもん」

 写真を自分側に戻し、指で写真の中の俺を撫でる。長いその指で撫でられた写真の中の俺にちょっと嫉妬する。俺にはそんな事しないじゃん。
 付き合って、月日が経てば経つほど、ヤキモチ妬きになっていくような気がする。いや、独占欲か?

「絶対この子、陽の事好きだーって思ったら泣けてきたりして。でも陽は年上の方が好きだから大丈夫って自分を安心させてたっけ」
「……俺、この時にはもうなまえが好きだったんですがね?」
「えっ、初耳ですけど!?」
「初めて言ったからな」

 さらりと言ってみせると、なまえは驚いたように身を乗り出す。
 あーあ。そんなに顔を真っ赤にしちゃって。しかもそんな可愛い顔を今の俺に近付けるなんて、無防備すぎ。

 ちゅ、とわざと音をたててキスをすれば、もっと顔が赤く染まった。可愛すぎかよ。

「ふ、不意打ちはズルいですって……!」
「なまえが顔近付けるから」
「そんな理不尽な……」

 あなた自分がイケメンなの知ってる?と突然聞いてくるので、知ってると答えた。だったらその犯罪的にイケてる顔を突然近付けて、心臓を縮み上がらせるような事をしないでくれと怒られてしまった。
 俺も、そんな可愛い顔をするなまえが悪いと反論するけれど「してない!」と拗ねられる。だからその頬を膨らませるのとか可愛いんだってば。

「夜くんに相談したりしてたんだけど……夜くんは知ってたのかな、陽が私を好きって」
「知ってたんじゃん?……俺も、相談してたし」
「ええ!?陽が!?」
「そう、この俺がだ」

 自分でも可笑しいって思うさ。
 女の子の相手なんて日替わり感覚でしていた俺が、一人の女に振り回されて、しかもそれに耐え切れずに夜に相談したんだから。そういう所も、中学時代が黒歴史だという理由の一つだ。

「じゃあ、こうして陽の隣にいられるのは夜くんのおかげだ」

 夜に後押しされたから、俺への想いを諦めずに済んだと言う。それは、本当に夜に感謝しなきゃな。俺だけじゃ、当時尖っていた自分となまえを繋ぎとめるのは難しかっただろう。

 中学三年生になって、高校の行き先を決める時、俺はなまえにやっと告白した。

『俺、お前と同じ高校に通いたい』

 精一杯の、中学時代の俺の不器用な告白。

 普通の人だったら「だから?」となる所だが、なまえは俺の気持ちを汲み取って涙を流して頷いてくれた。あの時の事は未だに鮮明に思い出せる。
 思い出す度に、あの頃の純粋な気持ちも思い出せる。それと同時に、俺の中の愛がまた一つ大きくなる。これ以上大きくなるのか、と思っていたけれど愛に限界は無いらしい。

 俺は彼女の両手首を掴み、ベットの上に押し倒す。

 ぎしりというスプリングの音だけでなんだか興奮してしまう。それは、今までの情事を思い出すからだろうか。

「よ、う……」
「好き」

 先程の比では無い位に激しくキスをすれば、なまえはとろんとした瞳になる。目を潤ませながら「わ、たしも、好き」なんて口にするものだから、また貪るようにキスをした。
 ああ、可愛すぎ……

「俺、お前と同じ墓に入りたい」

 精一杯の、今の俺の不器用な告白。

 一瞬きょとんと目を丸くし、間を開けて笑われる。まるでおじいちゃんみたいだ、なんて。失礼な、今の俺の精一杯なんだっての。でも、彼女はやっぱり涙を浮かべて頷いてくれた。

 そして、また何回目と知らないキスをした。


  陽、予想外に書きやすいキャラだった。そして、予想外に甘くなってビックリ。この2人気に入ったので、続編書くかも。



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