憧れの主人公

第03話

「クロちゃんって好きな漫画とかアニメある!?」





ナンバカ
第03話 憧れの主人公





今までに無い位、ニコが生き生きとして言ってきたので、思わずクロは瞬(マバタ)きを繰り返した。
興奮しているのか、かなり身を乗り出して来て、反射的にその分身を引いてしまう。

「漫画とか、アニメ?」
「うんうん!!」
「ド●ゴンボールとかワン●ースとか●ンターハ●ターとか大定番な物はテレビとかで見てたよ?」
「ホント!?」

伏字を使ってしても余裕でアウトな発言をすると、どれも大好きなニコは一層瞳を輝かせた。
その反応を見る限り、ニコは漫画やアニメが好きらしい。
クロは囚人になる前の頃、寂しさを埋める為にアニメを見ていた。カッコ良くて、可愛くて、面白くて、夢中になった物だ。
自分もあんな風に、素晴らしい仲間達に囲まれ、笑いたい物だと切実に思ったのを覚えている。
今述べた漫画の主人公は、いつもニコニコしていて、優しくて、いざという時頼りになって、沢山の仲間達に囲まれるのが納得の魅力を持つ。
そんな自分に無い魅力を持つ主人公に憧れるのは当然の事で、ああなりたいと、不可能な事を思っていたものだ。

「最近は見れてなかったな〜。務所にいるから当たり前なんだけど」
「ここでは雑誌とか漫画とかテレビとかあるから見放題だよ!!」
「す、凄い!!」

今までクロが入っていた刑務所は、どこも雑誌や漫画、テレビ等の娯楽系は置いて無かったので驚きを隠せない。
刑務所によって設備の充実さが異なっており、中には冷暖房器具が無い刑務所というのもあった。究極に寒がりのクロにとってはその刑務所が一番地獄だった(すぐに脱獄したが)。

「女の子向けとかはセーラー●ーンとかカードキャプターさ●らとか見てたなぁ、懐かしい……」
「あ! 僕知ってるよ、それ!!」
「ほ、ほんと!?」
「うん!『月に代わっておしおきよ!』ってやつだよね!」
「そう! それ!!『●ーンクリスタルパワー・メイクアップ!』って言って変身するの!!
 で、カードキャプターさ●らはク●ウカードっていうのを集める為に可愛い小学生の女の子が活躍するアニメなんだけど!!」
「それ今再放送してるやつだ!!」
「な、なんですと!?」

見なければ、という使命感に駆られるクロと、クロが見ていたアニメならば見なければ、と真剣に思うニコの様子を見ながら、外野状態の三人は冷や汗をかいていた。
あの大人しかったクロのテンションが劇的に上がったのだ。驚かない訳が無い。

ウノとしては、置いてきぼりな感じが気に食わず、どうにか話題に加われないかと思案に暮れていた。

「お、俺はポケ●ンとか好きだよ!!」
(ウノ必死だなぁ……)

ジューゴとロックは頑張って話題作りをしているウノを見て、生暖かい目で見守っていた。
実際に好きなのかもしれないが、ニコみたいにドハマりしている訳でも無いだろう。あまりテレビを見ているイメージも無いし。

「そうなの!? 意外だね!」

ウノのポ●モン好き宣言が本当に意外だったのか、ずいっと顔を近付けて目を輝かせた。
「っ……」クロの不意打ちに、珍しく顔を赤くして黙った。かと思えば、顔を手で覆い隠し「不意打ちずるいだろぉぉ、可愛いなぁぁあ!!」と悶絶していた。

「私、ピカ●ュウ大好きなんだよねー!」
「えっ」
「えっ?」

ニコが短く声をあげたので、同じく短く声をあげて振り返った。

「ま、まさか……ニコちゃん……お主……」
「クロちゃん……僕、僕は……っ」

お互い真っ青な顔で打ち震えていた。まるでこれから知る事になる険しい現実を受け入れるのを拒むかのように。あわよくば耳を塞ぎたかったが、時には目の前に立ちはだかる現実と向き合わなくては。

「イーブ●派なんだ……っ」
「な、なん……だと……!?」

大体予想通りではあったが、改めて受け止めるには過酷な現実であった。

「くっ……確かにイー●イは可愛い……っ、しかし……、赤いほっぺ黄色いシャツギザギザ模様の僕のベストフレンドであるピ●チュウは究極の可愛さだとは思わぬか……!?」
「うっ……けれどイ●ブイは、●カチュウに無い可愛さがあるのだよ……っ、あのふわふわな体毛……現実にいそうなあのフォルム……最高に可愛いではないかっ……!!」
「ふっ……ピカチ●ウのあのぷりケツ、丸いフォルムには負ける……ケチャップぺろぺろしていたアニメのピカチュ●は正に神の領域……」
「はっ……●ーブイこそ神……進化しても尚可愛さ余るあの姿……最強では無いか……あの可愛らしいフォルムが八つの新しき姿を成すのだ、神をも超えている……」

キャラ崩壊も甚(ハナハ)だしいクロと、そんな彼女に影響されるニコ。先程から伏字が目に痛い。
呆気に取られる三人。ウノは結局また話に入れないまま、先程のクロの不意打ちの余韻に浸っていて、心ここにあらずだった。

長い長いこのポケ●ン可愛いキャラNo.1を決める大討論の末、行き着いた答えは、

『みんな可愛いよね!』

だった。

ド天然であるクロとニコらしい答えではあるが、今までのあの長い討論は一体何であったのかと頭を悩ませるロックとジューゴ、ついでにこっそり聞いていたハジメであった(ウノはあのクロの不意打ちで意味を為しているので)。

「ねぇねぇ、クロちゃん!」
「うん?」
「僕の事、『ニコちゃん』って言ってくれたよね!」
「あっ、そ、そ、れは」

至極嬉しそうに目を輝かせるニコの言葉に、途端に体をぎこちなく動かし、恥ずかしそうに目を泳がせた。
髪を耳にかけてみたり、手で狐を作ってみたりと、かなり挙動不審な様子を見せる。

「ご、ごめんね? い、嫌だった、かな……?」
「なんで?」

上目遣いで自分を見る彼女に、ニコは不思議そうに首を傾げた。

「嫌な訳無いよ! むしろクロちゃんと仲良くなれて嬉しいよ!」
「へ……!?」

クロは、これが『仲良し』になれたという事なのか、と未体験の事に戸惑っていた。
ニコは今『仲良くなれたみたい』という曖昧な表現ではなく、『仲良くなれた』と断言してみせた。
もしかして、『ニコちゃん』『クロちゃん』と呼び合う事が『仲良くなれた』という事なのだろうか。

確かに、自分がニコの事を『ニコさん』から『ニコちゃん』にしたいと思ったのは、自分を『クロちゃん』と呼んでくれるというのもあるが、自分から彼に近付きたかったのかもしれない。
それが打ち解けるという事で、『仲良し』の第一歩なのだろう。
そう思うとなんだか不思議とくすぐったくって、尚更顔を赤くして俯いてしまう。

『俺も!!』
「!?」

唐突に前に乗り出して来たのはウノとロック。
自分を指差しては、「俺は『ウノ』って呼んでね!!」「お、俺も『ロック』って呼び捨てでいいぞ……!!」と大きな顔を並べて必死に主張する。

「よ、呼び捨てとはなかなかレベルが高い事を要求するね……!!」
『ダメ……?』
「う……努力します、です……」

二人が悲しそうに眉を垂れ下げるので、クロは小さくなりながら頷いた。
すると、二人は嬉しそうにガッツポーズをする。

「呼んでみて!?」
「oh!? い、今!?」
『Yes!!』
「オーマイガッ!!」

リアル外国人の二人の流暢な英語に対し、バリバリ日本人のクロは雰囲気だけの英語を発する。
無駄に加速する心音を落ち着かせようと手で押さえつける。呼び捨てというのは初体験過ぎて緊張してしまう。
一度息を整える。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……

「う、ウノ……、ロッ、ク……」
「FOOOOOOOOOOO!!!」

必死に、途切れ途切れで辿々しくなりながらも二人の名前を呼ぶと、二人は顔を真っ赤にしてテンションアゲアゲで踊り始めた。
頑張ったね、と肩をポンポンと叩いてくれるニコの存在に感謝しながら、クロは羞恥で赤くなった顔をフードで隠した。

「ジューゴくんは?」
「え」

今まで空気と化していたジューゴは、ギクリとした様子で雑誌から顔を上げた。

「俺は別に……好きなように呼んでくれ」
「じゃ、じゃあ……ジューゴ君、って呼ぶね」
「お、おう」

ジューゴもジューゴで、女の子に対してどう接したら良いのか分からないのか、少し緊張したように目を逸らした。

(なんかみんなと仲良くなれたみたいで嬉しいな……でも)

四人が楽しそうに戯れている中で、クロは言い知れぬ不安に駆られていた。
もし、この人達に裏切られたら。この人達が自分から離れて行ったら。
そんな『もしも』を仮定しては、心に蟠(ワダカマ)りが出来るのを感じていた。




目にした優しさと目に見えぬ不安
目にした優しさと目に見えぬ不安
(神様、私はこの人達を)
(好きになっても良いんでしょうか)

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