最強の刑務所?

第07話

ここは『南波刑務所』。
巨大な壁に囲まれ、最強のセキュリティと最強の警備網を誇る日本最大の刑務所である。
この刑務所で脱獄した囚人などいない。

いない……

「待ちやがれゴラァアア!!」
「またお前か、15番!! いい加減にしやがれ!!」
「せめて走れよ!!」

──はずだった。



ナンバカ
第07話 最強の刑務所?




「あれ? ジューゴ君は?」

ハジメに付き添ってもらい、着替えを女子風呂の脱衣所で済ませてきたクロが不思議そうに辺りを見渡した。
雑誌や漫画を読んでゴロゴロしているのは三人。……一人足りなかった。

「ああ……ジューゴなら脱獄してるぞー」
「ええ!?」

ウノが雑誌から顔を上げ、なんでもないかのように軽くそう言った。もちろん、それを聞いて驚かない訳が無く。クロは目を見開く。
この前、ここは快適だから脱獄はしないと言っていたじゃないか。

「つっても、ただブラブラしてるだけだろうけどな」
「そうなんだ……びっくりしたー」

今度はロックが本を閉じながら笑って言うので、クロは胸を撫で下ろした。

「……でも、何の為に?」

わざわざ看守達、特にハジメにかなり怒られるような事をするのだろう。本当にココから出る気も無いのに。

「まぁ、ジューゴは趣味って言ってたけどな」
「この前は『暇だから脱獄してくる』って言ってたよね」
「ふ、ふーん……」

ウノとニコが顔を合わせながら言ったその会話に、クロは愕然として返事をした。

(ジューゴ君の事、全然知らないな……)

出会って一週間そこらで、彼の事を知らないのはしょうがないのだが、他の三人と比べたら圧倒的に知らない気がした。
彼が一番常識的なようで、突然突拍子も無い事を言い出したりするし。
なにより、彼の目が、時折遠くを見つめていたりするのが少し気になるのだ。

(私を相手にすると、なんか不自然になるし……)

ウノ達も含めて話をする分には、まだまともに話が出来るのだが、二人で面と向かって話すとなると、途端にジューゴがギクシャクしてしまう。
お互いに、お互いを探り合っているというか。

それに、あの枷や目も気になる、

「あ」

という所で、ジューゴが後ろ手を組んでなに食わぬ顔をして帰ってくる。
途端にクロは嬉しくなり、立ち上がってジューゴを迎えた。

「おかえりー!」
「おう、ただいま」

──いつか、彼の事が分かるだろうか。



*15番の才能*

「ジューゴってさぁ、本気で脱獄以外の趣味ねーの?」
「ねぇーよ。趣味も特技も脱獄一本だ」

いつものようにみんなで本を読んでいる時、ふとそんな会話がされた。
当の本人達は雑誌から顔を上げなかったが、その会話を耳にしたクロはちらりと顔を上げた。
本当に脱獄が趣味らしい。

「この際だから、なにか趣味増やしたら?
 アニメ見る? マンガ読む? ゲームする?」
「いいって、興味ねーし」

さりげなく自分の趣味を布教しようとするニコに、クロは苦笑する。確かに自分の趣味というのは布教したくなりがちだが、無理に勧めるのはどうかと思う。

「ま、そう言わずに、暇つぶしなら脱獄以外にもあんだろ」

「ホレ」と言いながら何かをジューゴに投げ渡すロック。
その四角い物体は、綺麗に弧を描いてジューゴの手中に収まった。

「ん? なんだこれ?」

クロやニコ、ウノも見ていた雑誌を脇に置き、ジューゴの周りに集まってその四角い物体を見つめる。

「『ルービックキューブ』」

各面が3×3=9で出来ていて、赤い色白い色と各面それぞれ別の色で色付けされていた。
ジューゴとクロはルービックキューブを知らないのか、眺めては首を傾げた。

「これ知ってるー。すごい難しいやつだよね」
「へぇ……そうなんだ」
「隣の房の奴に貰ったんだけど、俺にゃさっぱりだしおめぇにやるよ」
「こんなのでどう遊ぶんだよ」
「いいか? まずこーやって色をバラバラに混ぜてめちゃくちゃにしてだな」

こういうゲームに詳しいウノが、ルービックキューブと呼ばれた四角い物体をカチャカチャ弄り始める。

「これをさっきの形に戻すんだよ、色を全面揃えてな」
「これを戻すのか?」

ジューゴに返されたルービックキューブは、見事に色がバラバラになっていた。
そこから先程の形に戻せ、と言われてもクロはチンプンカンプンで、ジューゴの手の中のルービックキューブを眺めては小首を傾げた。

「これが難しいのなんのって。おれなんて2面揃えんのがやっとで──」「ほらよ」

瞬く間に面を揃え、それを両手を上げたウノの手に乗っける。

「えええええええ!?
 うそおおおおん!?」

一体何秒で仕上げたんだと、目が飛び出さんばかりに目を見張り、ウノはかなりの衝撃を受けた。
いやいやいやいや。だって俺でさえ2面しか揃えた事……いやいやいやいや。
動揺したように6面揃ったルービックキューブをぐるぐる回している。

「ちっ、何にも面白くねーじゃんか」

頬杖を突き、不服そうに舌打ちをするジューゴ。

「じゃあ、これは?」
「は? ナニコレ?」

ニコの手に握られていたのは『知恵の輪』だった。
金属で出来ていている二つが組み合わされていて、決まった手順でないと外せない、その名の通り『知恵』が多いに必要なパズルの一種だ。
またしてもジューゴとクロは『知恵の輪』を知らないのか、二人して首を傾げた。

「おめー、知恵の輪もしらねーのかよ」
「しらねーよ」
「ごめん、私もしらないや……」
「クロは許す!」
「俺は許さねーのかよ!? 差別反対!!」

ジューゴの無知さに呆れたように言うロックに対し、自身もそうなんだとしょぼんとして打ち明けるクロに、ロックは親指を立てた。
女尊男卑だと、ジューゴは牙を剥く。

「これをうまい具合に外すんだよ。僕どうやってもできなくてさ〜」
「力技はナシだからな」

とはいえ、この『知恵の輪』というのは、例え力技を使ったとしても外れない物もあるが。

「さすがにこれは数秒じゃムリだろ、俺だって早くて数分くらい──」「ん」

カチャン。
ウノの立てたフラグを上手く回収するかのように、本当に数秒足らずで外してみせた。

「何故外す!!」
「外しちゃダメなのか!?」

ニコが外すゲームだと言ったから外したのに、かなりの形相で言われて狼狽(ウロタ)える。
もちろん、外しちゃダメな訳が無かった。

「まぁ、あるイミ才能だよね。本人は気づいてないみたいだけど」
「これを何故もっと違う事に役立てようとしないのか……」
「技術としては、凄いんだけど……ねぇ?」

「じゃあ次はコレだぁぁぁ!!」「解けた!!」「これ外してみろ!!」「外れた!!」「OH!MY!GOD!」という二人のやり取りをBGMに、外野の三人がそう呟きあう。

ジューゴが今までどうやって脱獄出来たのかが分かった瞬間であった。


♪11番への報告♪

「オイ11番。おめぇに手紙だ」
「え? 俺に?」

ハジメがやってきたと思えば、ウノに手紙を突き出してすぐに立ち去ってしまった。
そこに長居してしまったら、五人に面倒臭い事を言われてしまう可能性があるからだ。手紙という別の物に興味が引いている内に逃げ出した方が利口だろう。

あ、逃げたな。とは思ったが、ウノへの手紙の方が気になったので、クロはウノの手にある手紙を覗き込んだ。

「珍しいな、お前に手紙なんて」
「心当たりがあんまりねーんだよなぁ」
「誰から誰から?」

真っ白な封筒を手にしながら、ウノは「うーん……」と唸った。

「それってもらった奴が三日以内に十人に同じ手紙を出さないと死ぬって言われてる呪いの……」
「やめてよ!! 俺ジャパニーズホラー苦手なんだから!!」
「じゃあその封筒の中に誰かの骨か何かが入ってて……」
「やめろって!!」
「も、もしかしたら血で『呪』の文字が書かれてて、それが便箋を埋め尽くしてたり……」
「クロ!? 便乗しないでよ!!」

恐怖で恐れ慄(オノノ)くウノ。
ジューゴとクロの目が本気過ぎて笑えない。──しかし、内心では大笑いしていた二人だった。

「えー……と、差出人は……。キャ……」

ウノへの手紙なのだからとうぜんだが、クロの読めない文字で宛名と差出人が書いてあった。
差出人の所には『Catherine』と書いてあるのが見えたが、クロには全く読めず、ウノが読み上げるのを待った。

「キャサリン!?」

彼の口から出た名前は、意外にも女の人の名前だった。

「知り合いかよ。ちっ、つまんねーの」
「誰ー?キャサリンって」
「お友達?」
「ふふん……俺の昔の女よ」
『女ぁ!?』

一同は信じられないというように驚きの声をあげる。


ウノなんかに女が……!?


実に失礼な話である。しかし、ウノはキャサリンからの手紙というだけでテンションが上がり、一同の失礼な考えなんて気付いていなかった。

「もしかして、俺とヨリを戻したいとか思ってわざわざ手紙をよこしたとか。可愛い所あんじゃん」

頬を赤く染め、嬉しそうに口元を緩めるウノ。
「いやぁ、でも俺にはクロという女の子が──」とか言いながら封筒を器用に指で綺麗に破り、中身を取り出した。
そして、二つ折りになっていた手紙を開いた瞬間、とんでもない文字が視界に入ってきた。



『結婚しました』



(!?)

その文字に、ウノが石のように固まってしまう。
読めないクロが、気になったのか書いてあった内容に興味を示し、何が書いてあったか尋ねて来たので半分放心状態で内容をそっくりそのまま教えた。

すると、ジューゴが笑い始めた。

「なーんだ、ただの報告じゃねーか。ざまぁ」
「う……うっせーな!! まだ続きがあんだよ!! だーってろ!!」

とはいえ、かなり動揺したように汗をびっしょりとかく。
それからクロ達にも内容が分かるように、書いてある事を読み上げた。

──私の彼はあなたにとてもそっくりな方なのよ。写真も入れておくわね。

「うおお〜! やっぱりなんだかんだで俺の事が忘れられなかったんだなぁ〜」

途端に嬉しそうに顔を綻(ホコロ)ばせる。実にコロコロ変わる表情である。

(ムショに入ってから全然会ってなかったケド……。きっとアイツなりに寂しい思いをしてたんだな……)

少し悪い事をしたな、と眉を八の字にして申し訳無く思うウノ。
さて、その俺に似てる奴ってのはどんなのだ?と封筒の中にあった一枚の写真を取り出した。
結構なイケメンなんだろうなぁ、と呟きながら写真を見る。
するとそこにはやはりイケメンが──と、思うだろう?実際は、かなりふくよかな体型をした(はっきり言えばデブ)自分と似た帽子を被った奴だった。

「誰だよ!!」



物語のお約束に殉じます
(やっぱりオチはこうでないと!)
prev | next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -