囚人×5+看守×1

第06話

「あーあ。暇だな」

クロという少女が13舎13房に入ってきて約一週間経ったある日、囚人番号15番のジューゴが鉄格子を掴みながらそう零した。

「暇なんだよ、ハジメ」
「お前それ言うだけに俺を呼んだんじゃねーだろうな」

「なぁー、聞いてる?」と鉄格子越しにハジメを横目で見るジューゴに対し、腕を組みながらイライラしたようにハジメが口を引き攣らせた。



ナンバカ
第06話 囚人×5+看守×1




「なぁなぁ、ハジメちゃん! 誰か可愛い子とか面会に来てない?」
「来てねーよ。つか、てめーはその質問毎日しねぇと気がすまねぇのか」

長い金髪で、所々ディープピンクのグラデーションがかかっている髪を揺らしながら、スカイブルーの瞳を輝かせる囚人番号11番のウノに、ハジメはそう苛立たしげに切り捨てた。

「メシの時間はまだか?」
「さっき食っただろうが!!」

赤紫の髪で、センターは赤い髪をした囚人番号69番ロックがゴールドの瞳の下にある口からヨダレをじゅるっと出すものだから、お前はどこのジジイだと怒りを顕にした。

「ハジメくん! お願い! 来月発売の限定版DVDボックス予約して買っといて! 出所したら取りに行くから!!」
「知るかあああ!! なんで俺がその約束をしなきゃなんねーんだよ!!」

お前のはただの私利私欲じゃねぇか、と怒鳴りつけた相手は黄緑色の髪色をしていて、大きめのカーマインの目を携えた囚人番号25番ニコだった。

「そういや俺、もうすぐ出所だったわ。オイハジメ、今から脱獄すっから刑伸ばしてくんね?」
「お前またそうやってここに長居する気か!! いい加減にしろ!! 」

黒髪で、モミアゲ部分が赤く、光の加減で色の変わる両目を持つ囚人番号15番ジューゴはふと思い出したようにとんでもない事を口走るので、ハジメは迷惑極まりない彼に今までよりも怒りが込み上げた。

「ねぇねぇハジメちゃんハジメちゃん! 一緒に遊ぼうよ!!」
「遊ばねぇよ!! お前マジで変わったよな!!」

綺麗な黒髪をふわふわと宙に浮かせながら、ぴょんぴょん跳ねて自分より51cmも違うハジメをルビーの瞳で見上げ、手を振っている彼女にお前もかと最大限の声で怒声を上げた。



◇ハジメくんにお願い◆

五人仲良くテレビを見ていた昼下がりの事だった。
時間帯的にどこもニュースをやっていて、そのニュースの一つである『殺人犯、確保!!』という大々的にやっている物に、五人は目を引いた。

「うわー、また殺人犯捕まったってよ」
「こ……怖いなぁ……」
「ほ、本当だね……モザイクかかってるのに雰囲気がやばい……」
「物騒な世の中だな〜、まったく」
「つか最近多くね? シャバも随分腐ってきたな」

「おえ……しかもバラバラにして海に捨てたってよ」
「そ……そんなぁ! ひどすぎるよ、こんなのぉ!」
「うぅ……想像したくないぃ……!」
「こりゃ確実にイカれてるな」
「ココに入ってこなきゃいいけどな〜」

そのロックの言葉で、五人は一斉に静止する。

……殺人犯が捕まったという事は、刑務所に入れられるという事。しかも事件が起こった場所は、日本。おまけに、バラバラ殺人犯という事はかなりの凶暴な奴。
この南波刑務所は、問題のある人物ばかりが収容される。可能性としては──0じゃない。



『お願いだから「ココ」には入れないでね!! 一緒の独房なんてやめてよね!! 絶対!!』
「お前等はクラス替え前の女子か!! 殺人犯は一緒にしません!!」

いきなり呼び付けられたと思えば、まるでクラス替え前の女子のようなテンションの五人を鎮めるハジメ先生だった。



□俺は女にモテるハズ■

「ウノ! 俺がシャバに出たらモテると思うか!?」

ドン!!と唐突に本題を口にするジューゴ。
それはクロが少しお手洗いに席を立った時に始まった、所謂(イワユル)ボーイズトークのような物だった。

「無理!!」
「はえええええ!!」

ズバ!!と一刀両断するウノ。
なんの迷いも無く言い切るウノに、ジューゴは青筋を立てる。

「即答してんじゃねぇよ!!」
「だってジューゴって性格悪いし金遣い荒そうだし仕事とかできなそうじゃん」
「言いたい放題だなオイ!!」

ウノの胸ぐらを掴み、噛み付く位の勢いでツッコミを入れる。

「それに俺は悪い所より、良い所の方が多い!! なんたって体毛薄いし、乳首だってピンクだしな!」
「それいい所か?」

「見る?」と言うジューゴに「興味ねぇよ……」と返す。
どうして中身では無く、外見──しかも表面上の物だけを良い所としているんだ。中身だって良い所が沢山あっただろうに。

「そんな一部分に惚れる女がそうホイホイいるかよ。もっと現実的に考えろって」
「現実的に女が好きなもの……」

しかも脱がないと分からない所がミソだった。
「つーか、その『目』でいーじゃん。キレイだよ」とまともな良い所を提示してやるが、ジューゴは手を顎に添えて考え込んでいた。

「───そうか!!」突然電流が走り、ジューゴはバッと顔を上げた。



「俺『男』もイケます!!」



「ちょっと待て、そりゃ『極一部』の女子しか反応しねぇぞ!! 無茶なウソはやめろ!!」

いきなり何を言い出すんだ、とウノがジューゴを止めようとした時、ふと目線を上げて「あ」と短く声を出した。

「ジュ、ジューゴ、君?」
「ギャアアアアアアアァ!!!!」

後ろからクロの声がして、思わずジューゴは両手を挙げて甲高い悲鳴をあげた。
向かい側にいるウノも、やれやれだから言ったのにという顔をしながらも、ハラハラしたように冷や汗をかいていた。

「ちが、ち、違うんだ……!」
「あ、あのっ」

とんでもない事を聞いてしまったという顔であたふたしている彼女に、誤解を解こうと口を開くが、あちらも同様のタイミングで口を開いた。
けれど、何て声をかけたら良いのか分からないのか、目線をあちらこちらに巡らせながら考え込んでしまう。
思わずこちらも何も言えずに静止する。

「ごめんなさい……っ!」
「え!!??」

突然くるりと踵を返して駆け出してしまう。
一体何に対して謝ったんだ。聞いてはいけないような事を聞いてしまったからか、それとも自分は男じゃなくてごめんなさいという事なのか、男を好きなジューゴ君は受け付けられませんごめんなさいという事なのか。
というか、どこに行くつもりなのか。

とにかくすぐに立ち上がり、クロに向かって手を伸ばした。

「ま……待ってくれえええええ!!!!」
(すげぇシュール……)

それから誤解を解くのにかなり時間を要したとか。


☆俺らの日常★

「なぁー。俺達って囚人なんだよな?」

みんなで本を読んでいる時に、ジューゴがふと口に出した。

ちなみに、ジューゴは何故か地図を、ウノは新聞を、ロックは妖怪の本を、ニコがジャ●プを、クロが料理本を読んでいた。
クロはフランス料理のお店で売られているらしい『 国産牛フィレ肉のポワレ 季節の温野菜とマスタードソース オレンジの香りを纏ったブールパチュー 』というのを眺めて名前の長さに目を回していたので、顔を上げてジューゴに視線を向けた。彼の言う事はいつも唐突で突飛な事だ。

「まぁな。一応そういう事になってるみたい」
「普通こういう場合、脱獄ストーリーっていうのが基本だよな」
「なんだぁ? ジューゴ、おめぇ脱獄すんのか?」
「え!? ジューゴくん、脱獄するの?」
「だ、脱獄しちゃうの、ジューゴ君!?」

せっかく出会えたのに!!と涙目になるクロだが、ジューゴは至って普通の顔で「いや」と否定した。

「正直、ここのメシは美味いし、風呂も広いし、空調効いてるし、案外快適なんだわ」
「まぁ。3食飯付きで、健康的な時間生活だし、至って普通に過ごしているな」
「自由時間も長いし、球技大会もあるしな」
「漫画も雑誌も読み放題だもんね」
「あー、確かに今までの刑務所よりずっと良いよね、ここって」

うんうん、とお互いの言葉に頷き合う五人。

「確かに俺は脱獄のプロだけど、思ってみれば俺、家ねーんだよ」
「あー。そりゃ脱獄しても意味ねーわ」
「どうせ俺たちゃ、シャバに出ても職に付けねぇしな」
「僕、お金の稼ぎ方とか分かんないよぉ」
「シャバに行っても怖い人いっぱいいるだけだし……」

だったらずっとここでみんなと一緒にいたいなぁ、と思いながらもシャバの情景が脳裏に過ぎったのか、フードを引っ張ってすっぽり頭を隠した。

一方その頃、ハジメが丁度その頃に見回りをしていた。
すると、13房がワイワイと賑わっていた。いつも奴らはうるさいが、その賑わい方が何かを企んでいる時と似ていたので、あいつらまた何か企んでんのか?と思い耳を傾けた。

「じゃあ」

15番の声が真っ先にする。
ほぼ発案者は15番か11番だ。これはよく傾聴しなくては──


「じゃあ、もうココを俺ン家にするっていう考えはどうだ?」


──そんな事は無かった!

思わずハジメはガクッと脱力する。

「ローンなしでマイホーム」
「えー? じゃあ、俺って居候って事? ルームシェア?」
「兄弟か何かで良いんじゃね?」
「ねぇねぇ、僕は?」
「お前はペットだな」
「はいはーい! 私はー!?」
「クロは俺のお嫁さ──ゴフッ!」
「クロもペットで良いんじゃないか?」
「ニコが犬でクロが猫だな」
「お、お前らぁ……」
「ニコちゃん、確かに犬っぽいね!」
「クロちゃんも猫っぽいよね!」

ウノを総殴りするロックとジューゴ、二人に殴られて身悶えているウノ、お互いに犬と猫の鳴き真似をするニコとクロを眺め、ハジメは(こいつら平和だな……)と思うのだった。



安らぎの場所
(13舎13房は今日も平和です)

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