のろのろと教室へ戻ると、放課後の閑散とした空間には、二人の影。

「……あれ? 俺、帰ってていいよって言わなかったっけ」
「おかえりー」
「おかえりー」

 教卓に近い位置の前後の席に座って、俺の姿をみとめたヒロとミーちゃんが、俺に向かってひらひらと手を振った。
 二人ともどことなく表情に好奇心が滲んでいる。そして案の定ヒロが、どうだった?と訊いてくる。どうって。

「断ったから」
「ほらやっぱりな」
「えー、何でよ、付き合っちゃえばいいのに」

 予想通り、という顔をするヒロと、不満げな声をあげるミーちゃん。どちらに対しても返す言葉も見当たらないくらいには憔悴している。もう、だから俺帰ってていいよって言ったのに。
 告白を断るのって、驚くくらい体力を消耗する。最近は、特に。
 のろのろと教室の奥へ進んで、重みのないカバンを掴んだ。

「イケメン大変だな」

 席から立ち上がったヒロが、そう言って俺の背中を軽く叩いた。
 他の誰かが口にしたら嫌みにも聞こえそうなセリフも、ヒロが口にするとそんなふうには微塵も感じない。心配してくれてる声だからだ。ヒロはやさしい。思わず涙腺がゆるむ。

「遥さあ、べつに好きじゃなくても一回付き合ってみたらいいじゃん」

 何の感慨もなさげにばっさりと言うミーちゃんは、今日も通常運転。ていうか、ぶち壊しだよね。

「ミーちゃんのばか!」

 何故か足元に転がっていた誰かのバスケットボールを拾い、ミーちゃんに投げつけた。

「なんで俺? 遥がいつまでもズルズルズルズル引きずってんのが悪いんじゃん。重いし、めんどくせーんだって!」

 容易く受け止められたボールは、刺さる言葉といっしょにまた返ってくる。

「好きで引きずってるわけじゃないし!」
「だから! 忘れられねーんなら、とりあえず誰かと付き合ってみたら忘れられるかもじゃんって話じゃん! てか、遥すぐ泣くのやめれ。ウザイから」
「好きで泣いてるわけじゃないし! ウザイとか言わないでよ〜!」
「おまえら教室で妙なキャッチボールすんなっつーの!」

 俺とミーちゃんの間に割って入ったヒロが、果敢にボールを取った。ヒロくんかっこいい。

 ああ、俺もヒロみたいにやさしくて男気があったらよかったな。ミーちゃんみたいに……っていうのは、ぶっちゃけ嫌だけど、でも俺なんかよりはずっとはっきりしてるし、そういうところは素直に羨ましいと思う。
 ここのところの俺は、自分以外の人間はみんな輝いて見える。俺だけ立ち止まっているように感じる。あと、ちょっと涙もろくなった。


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