「なーにネガティブになってんの」

 俺の後ろで、荷台にまたがったミーちゃんが言う。ため息こそ吐かれなかったものの、めんどくさそうな声を隠さない。
 夕暮れの帰り道、途中までいっしょだったヒロと別れて、ミーちゃんとチャリの二ケツ。
 俺もミーちゃんも、家は同じ区にある。ミーちゃんは普段電車通学で(姉の美香ちゃんといっしょに)帰ることが多いけれど、今日は俺のチャリの荷台に乗った。

「ネガティブな遥めんどくせー」
「……俺、基本ネガティブじゃん」
「いや、根本はポジティブだって。中学んときからさ、遥って落ちるときは落ちるけど、立ち直りは早かったよ」
「えー、そうだっけ……」

 自分のことなのに、よくわからない。
 てかミーちゃんって、人のこと見てないようで意外と見てるよね。ちょっとびっくりする。

「さっき告白されてたさあ」
「うん」
「澤野さん? だっけ? 二年んときいっしょだった」
「うん」
「あの子けっこうかわいいよね。なんかたまに雑誌とかに載っちゃってるらしいよ」
「え、ミーちゃんがそういうの知ってるのめずらしいね。てか澤野さんそうなんだ。すごいね」
「いや、俺ってわけじゃなくて、美香ちゃんが今澤野さんと同クラらしくて、そういう話を聞いただけだけど」

 あ、やっぱり。

 田舎とも都会ともいえないような街並みを、風を切って進む。海が近いので、風は少し潮のにおいが混じっている気がする。
 夕暮れの橙と、微かな潮のにおいに、胸が痛んだ。感傷的で嫌になる。

「遥はさあ」

 横断歩道の赤信号でチャリを止めたら、後ろから間延びした声がかかる。おざなりに、なにー、とだけ返した。

「ああいう雑誌とかに載っちゃってるかわいい子でもダメなわけ?」
「……」
「でもあれでしょ? 遥くんちゅーしてー、とか迫られたらしちゃうんでしょ? どうせ」
「……いや! しないから! てか何の話してんの!?」
「ぶはっ、ちょっと迷ってるし」
「迷ってないし!」
「遥くん、ポジティブにいこうよ。ちゅーして忘れてしまえばいいじゃない。イケメンを有効活用していこうよ」
「ミーちゃん下ろすよ!? 横断歩道のど真ん中で下ろすよ!?」

 言って、信号が青になってしまったので、慌ててペダルを踏んだ。
 横断歩道のど真ん中、後ろでミーちゃんが、遥くんはホントに残念だな、と独り言のように言った。返す言葉もない。
 くっそ、ミーちゃんぜったい明日の数学の宿題、頼まれても見せてやらない。

 建物に反射して、痛いくらいにまぶしい橙の夕日で、視界が滲んだ。



13.8.30


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