《超・キョンシー術》。
 それが生み出すものは、魂を失った動き回る死体――いわゆる通常のキョンシー――ではない。
 そもそも人間には、精神を司る魂(こん)、肉体を司る魄(はく)のふたつが宿っている。
 通常のキョンシーに必要なのは肉体を司る魄のみであるが、死んだ肉体に魄、そして天へと還った魂を強制的に呼び戻し、両方を宿す――すると、“極めて生前に近い状態”での蘇生を可能にするのだ。
 拘魂制魄(こうこんせいはく)の術。
 それは真なる死者蘇生。
 世界の理から外れた――最も重い“罪”の術である。


 
 冬の訪れ、私は禁術――《超・キョンシー術》に必要な《八卦の札》の制作のため、自室で机に向かった。
 が、初期の段階にして作業は難航を余儀なくされた。これまで母に言われるまま、または児戯の産物として作ってきた《八卦の札》とは、あきらかに桁が違っていたのだ。
 およそこの世に存在するすべての言の葉を――恐ろしく膨大な量の術式を、たかだか私の手のひらほどの長さのたった一枚の紙切れに記さなくてはならなかった。それも火や雷を起こしたり、水を降らせるだとかの単純な術式よりも遥かに難解なものを、だ。
 例の書物によれば、過去に白家の者たちがこの《超・キョンシー術》試みたが、そのほとんどが途中で発狂し、術式を誤り、自らを灰にしたらしい。

(灰になるのなら、本望よ)

 仮に失敗して、その結果死ねるのなら、それでもよかった。むしろはじめはそれが望みですらあった。
 けれどそんな自殺めいた願望とは裏腹に、私は牙を剥く猛獣のごとく机にかじりついた。脳が焼けるような熱さを感じながら、休むことなく筆を動かし続けた。
 そうして――いくつかの夜を越えた。
 その日、私は久方ぶりに自室を出た。《八卦の札》が完成したのだ。
 禁術に手を出したその日からまるでこの世の刻が止まってしまったかのようだった。外の景色は白一色で埋め尽くされ、雪が音を吸うせいか、辺りは耳鳴りがするほどの静けさであった。
 いまだ降り続く粉雪のなかを進んでゆく。寝食を疎かにしたことで衰弱した体を引きずりながら、私はなんとか地下室へと赴いた。危うい足取りで階段を下り、手術台の前へと立つ。

「皓くん……」

 吐いた白い息が、眠り続ける彼の血の気の失せた頬を滑る。

「もうすぐよ、皓くん」

 彼の頬に両手でふれる。そこにあるはずもない体温が、肌越しに伝わってくる気がした。紛れもない錯覚だ。けれど、ああ、胸の高鳴りを抑えきれない。もうすぐだ。
 きっともうすぐ、あなたに逢える。


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