罪と罰A
明け方からちらつきはじめた雪片が、夕刻に差しかかるいまも灰のように舞い踊っている。
冬がきたのだ。長い長い、世界から色を奪い去る氷の季節が――。
焔月氏がこの家を訪れた翌日。
私は朝早くから縁側へ出向き、庭が色を失くしてゆく様を漫然と瞳にうつしていた。焔月氏から譲り受けた彼の手紙を、まるで命ある生き物のように大事に膝に抱きながら。
(……なんだか、懐かしいわ)
寒空の下、こうして何もせずにいる時間は、幼い頃に離れの部屋の小窓から外の景色を見ていた日々を思い出させる。窓の外なんて、景色と言えるほどなにもないただ雪に覆われた大地があるだけであったけれど、幼い私にとってはあの目が眩みそうな白こそが太陽で、月だったのだ。
霏々と雪の粒を落とし続ける曇天を、軒下から仰ぎ見る。
――君自身の心に従いなさい。
胸のうちで、叔父の声が私に囁きかけた。
(私自身の心、か……)
私に心があるとするならば、それは彼から与えてもらった唯一のもので、すでに粉々に砕け散ってしまっていた。
しかし、砕け散った破片はいまも私の内側に重く積もっているのだ。永久に溶けない雪のように。
焔月氏に託されずとも、叔父から赦されずとも。無数の見えない糸に引かれるように、きっと私は同じ選択をしていただろう。
膝に抱いていた手紙を、懐へ仕舞った。
代わりに手を伸ばしたのは、叔父の自室で見つけた古い書物。傍らに置いていたそれの深い暗色の装丁を、開く。
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