それから一ヶ月後。優木くんとのいざこざも忘れた頃に、わたしの周りではある事件が多発していた。

「……」
「杏?」
「ない……」
「はあ!? また!?」

 ここ数日、わたしの私物がちょこちょことなくなっているのだった。
 ハンカチに、ペンケース。それとリップクリームや絆創膏を入れているパンダのポーチ。今日は体育でいない間に、教室に置いていたネイビーのカーディガンがなくなった。どれも地味にだいぶ困る。
 ハンカチがなくなった時点では、どこかに落としてしまったのかなと、単に自分の不注意だと深くは考えていなかった。しかしこうも連日物が消えれば、さすがに「これはもしや……」という思考に至る。
 これはもしや、誰かに盗られてる?

「完全に誰かに盗られてるよ!」

 体育後の休み時間、わたしの席周辺では小さな会議が開かれていた。議題はもちろんわたしの私物失踪について。ちなみに参加者は、七瀬と森くんのおなじみメンバーである。

「杏、心当たりないの? こいつが怪しい! とか!」

 当事者のわたしよりも熱くなっている七瀬が、机をバンバン叩きながらわたしに問う。
 こいつが怪しいって、そんなあからさまな人がわかっていたなら、そもそもこの会議は開かれていないんじゃなかろうか。
 けれど状況を整理してみないことにはどうにもならないので、最近の記憶を掘り返してみることにする。でもやっぱりめぼしい人物なんて……。
 ふと、そのとき脳裏にかすめたのは、一ヶ月前の出来事。優木くんに崎くんのことでいろいろと言われて、つい強い口調で跳ね返してしまったことだ。
 もともと他クラスで、同じ選択授業もとってないし会う機会もほとんどなかったので、優木くんのことはすっかり忘れていたけれど……。
 不自然に黙したわたしに、森くんが目ざとく、いるんだな? と目を光らせた。

「誰!」
「……でも、証拠ないし」
「そんなのこれから掴むんだよ! あんた物盗られてんだよ!? 立派な犯罪だ、犯罪!」

 鼻息荒くまくし立てる七瀬の勢いに負けて、わたしは一ヶ月前の事のあらましを二人に白状した。
 話を聞き終えると、七瀬が意外な反応をみせた。

「ああ、あいつか!」
「えっ、七瀬、優木くんとそんな親しかったっけ?」
「いやまったく親しくはないけど、優木、一年のとき杏のこと好きだったじゃん」
「え゛っ」
「なに、気づいてなかったの? だって優木のやつ、杏と話すときだけやたら距離近かったし、ボディタッチとか頻繁だし、あと杏が日直のときだけ毎回手伝い申し出たりとかしてたじゃん」
「……そうだったっけ……」

 言われてみればそうだった……かもしれない。
 しかし、優木くんがわたしを好きだというのは初耳だ。本人から告白の類は一切されていないし。たぶん。

「杏ちゃん、そっち方面は鈍チンだかんな〜。ちゃんと好きなら好きって言ってくんないとわかんないもんな〜?」

 森くんがわたしの髪をぐしゃぐしゃなでくりまわし、七瀬も森くんの言い分に同意とばかりに心底呆れた顔をする。二人そろって心外だ。でも論破できそうもない。
 とはいえ、もしその話がほんとうで、そして現在進行形なのだとしたならば、一ヶ月前のあのやたら優木くんが崎くんにこだわっていた理由も納得できないこともない。理解はできないけれど。
 だって、まるで裏でこそこそと探るように、でも言いたいことははっきり言わないで、あんなふうな態度をとられたらもともと悪くなかった印象も変わってしまう。
 
「まあとりあえず、犯人の目星はついたね」
「でも馬鹿正直に直訴しに行っても、そいつがしらばっくれるのは目に見えてるよなぁ」
「証拠もないし……」

 三人そろって沈黙する。
 犯人を優木くんだと仮定して、つまるところわたしは、一ヶ月前のあの件で優木くんを逆上させたのだ。そんな彼に、何の証拠もなしに手ぶらで嫌がらせをやめるように言ったところで、森くんの言う通り、素直に認めて私物を返却してくれるとは思えない。最悪の場合、嫌がらせをさらに助長させてしまう気がする。
 ううん、どうしたものか……。

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