祭囃子が響きわたる現地に到着すると、いよいよ人混みがすごい。
わたしたちは四人でなんだかんだ喋りながら屋台通りを練り歩いた。とはいえ、わたしと七瀬、そのすぐうしろを崎くんと森くん、という男女二列に自然となっていた。
「あ、みて杏」
夕飯を兼ねていくつか食べものの屋台を回ったあと、七瀬が金魚すくいの屋台の前で立ち止まった。
すでに子どもがキャッキャと挑戦している横で、七瀬と並んでしゃがみこみ、水槽を覗く。
「なつかしー。小学生んときやったわ」
「わたしも。かわいいね」
提灯の灯りが反射してキラキラ光る水面で、赤や黒の小さな金魚たちがスイスイと泳ぎ回っている。
「スイミーみたいだな」
わたしのうしろで、崎くんの呟く声が聞こえた。スイミー……。思わず口元がゆるむ。
「金魚すくいの金魚って、金魚じゃないのもけっこういるよなぁ」
と、森くん。
「ああ、フナとかっすか?」
「崎クン、金魚とフナって同じだからな」
「エッ?」
「フナが成長の過程で赤くなったやつを金魚っつーんだよ」
「へ〜、すごい森先輩。さかなクンみたいっすね」
「二年になったら生物のテストに出るからな。今の話ちゃんと覚えとけよ」
「あはははっ」
崎くんすごい笑ってるけど、わたしには正直笑いどころがわからん。
金魚の話から、すでに別のよくわからない話題で盛り上がっている、背後の男子ふたり。
このメンバーの中で一人だけクラスどころか学年の違う崎くんが、今日は窮屈な思いをするのではないかとひそかに心配していたのだけど、どうやら杞憂だったらしい。
「男ども仲いいな〜」
「……ね」
優雅に泳ぐ金魚を眺めながら、わたしはぼんやりと膝の上で頬杖をつく。そして、失敗だったかな、という思いがふと脳裏をよぎった。
浴衣、失敗だったかも。
大人っぽい雰囲気の柄を選んだつもりだったけれど、わたしが着たところでさほど効果はないみたいだし。七五三らしいし。
――崎くん、結局なにも言わないし……。
お祭り、楽しみにしてたのだけど。
なんでだろう、思ったより楽しくないな。
「見てるだけじゃあれだし、一回やろっかな」
浴衣の袖をまくり、屋台のお兄さんからポイを受け取る七瀬。
七瀬が金魚をポイで追いかける様子を、わたしは隣で観戦する。けれどその最中、まったくべつのことを考えていた。
――七瀬、いいなぁ……。
駅で落ち合ったときも思ったけれど、七瀬は浴衣姿がすごく似合っている。スタイルがいいから艶やかなのだ。わたしは素直にうらやましかった。ため息が出そうなほどに。
「ああっ、やぶれた! あたし下手くそ〜」
「……七瀬、わたしお手洗い行ってくるね」
「え、ついてこっか?」
「ううん、へいき。もうすぐ花火始まるし、すぐ戻るから」
そう告げて、足早に歩き出した。
カラコロと下駄底を鳴らしながら、途中たくさんの浴衣姿の女の人とすれ違う。みんなきれいで、うらやましい。
「……失敗した……」
浴衣、着てこなければよかった。
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