七月の後半。夏休みはまだ始まったばかり。
 時刻は夕方になるのに、外はまだ明るく、蜩どころか蝉が鳴いている。

「杏、ごめん! 着付け手間取っちゃってさ〜!」

 忙しなく下駄の音をさせて、浴衣姿の七瀬がやってきた。

「大丈夫だよ、時間ちょうどだから」
「あ、杏それ自分でやったの? 着付け」
「まさか。今お姉ちゃん帰ってるから。七瀬は自分でできるからすごいね」
「ちゃんとはできないよ。結局最後はばあちゃんが手ぇ出すもん」
「きれい」
「……ほ、ほんと? 大丈夫かな、髪とか」
「いい感じ」

 七瀬は、紺地にピンクの薔薇模様の浴衣に身を包んでいた。ふだんあまりアレンジをしないショートヘアも、今日は前髪を蝶の髪飾りで留めてすっきりとしている。

「杏も、いい感じだよ」
「……へんじゃないかな」
「かわいいかわいい」

 わたしはというと、白地に赤い椿の柄の浴衣だ。湿気でうねる長い髪は、低い位置でおだんごにしてまとめている。

「んじゃ、いこっか」
「うん」

 今日は、近場の花火大会に行くことになっていた。わたしと七瀬と、それに崎くんと森くんの、四人で。ちなみに発案者は森くんである。『浴衣必須!』という条件がメッセージで送られてきたけれど、森くんに言われなくても、新しく浴衣を買ってもらったので、今年の夏祭りには着てくるつもりだった。
 先に七瀬と駅前で落ち合い、そこからふたりで待ち合わせ場所である菫橋へ向って歩いていく。
 道中、七瀬が巾着からスマホを取り出した。

「ふたりとももう着いてるって」
「ほんと? 急いだほうがいいかな」
「まだぜんぜん時間前だし、大丈夫でしょ」

 待たせとけ待たせとけ、と七瀬はけらけら笑うが、しかし、崎くんは森くんと面識ないんじゃなかろうか。大丈夫かな。

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