「おめでとー」

 部活の休憩中、武道場の出入り口で風に当たっていたら、うしろから崎に声をかけられた。

「なにが『おめでとー』なんだ」
「なにって、樹ちゃんとのこと」
「……樹から聞いたのか?」
「や。昨日二人が手ぇつないで帰ってるとこ見かけたから、うまくいったのかな〜って」
「……」

 樹本人から聞いた。崎に、俺のことでひそかに相談を持ちかけていたことを。つまり崎はとっくに樹のほんとうの想いを知っていたらしい。
 例の怒りの告白を受けてから一週間が経っていた。まだ誰にも打ち明けていないし、予定もなかった。
 ちなみにいま崎から話題を寄越されたことで、予定が狂ったのだが。

「よかったっすね」
「……ありがとう」

 他の友人ならばきっと、なんで早くに報告してくれなかったんだとか、その後の状況はどうだとか煩く言われるところなのだろうが、崎はとくに詮索するでもなく、過剰に喜ぶわけでもなく、いつも通り、至ってあっけらかんとしていた。
 こいつのこういうところは、俺は嫌いじゃない。

「……なあ、崎」
「んー?」

 ペットボトルのアクエリアスを呷っている崎に、白状する。

「俺、樹はおまえのことが好きなんだと思ってた」

 崎がきょとんと俺を見やり、やがて、笑い出した。
 およそ二年にも渡った俺の苦悩を爽快に笑い飛ばした崎は、涙を拭きながら無邪気に言ってのけた。

「拓実って、けっこう鈍感だよな」

 解せない。
 崎に言われたくない、と心底思うが、実際その通りなのだから結局なんにも言えずじまいであった。
 誤魔化すように見上げた紺碧の空がやたらにまぶしい。風が道着の内側を吹き抜けていく。もうすぐ夏休みなのに、それはまるで春のように青く澄んで、心地よかった。



17.6.3

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