五月の後半に差し掛かり、春も終わりかー、とかぼんやり思っていたら、杏にカレシができた。
 相手の男は、あたしよりも森林よりも大柄な男だった。崎くんとかいう、一年生。
 聞けば、バイト先の先輩に誘われた合コンで出会い、その帰りに告白されたというので驚いた。でもそれ以上に驚いたのは、杏がそれを受けたということだった。
 杏は、流されるような子じゃない。ずっと見てきたし、そんなことはわかっている。だからこそのびっくりだ。
 だって、そんないきなり出てきた男にいきなり告白されて、いきなり付き合うなんて……。

「うまく言えないんだけど、崎くんと付き合ってみたい……」

 学校帰りのミスドで、杏に改めて崎くんとのことを訊いたら、杏はそう答えた。頬をほんのりと赤らめて。
 あたしは、今日まで杏と一番の友だちとして過ごしてきたつもりだったけれど、杏のそんな顔ははじめて見た。まるで恋をしているみたいな、かわいい女の子の顔だった。
 そっか、おめでとう、とそのとき素直に言えなかった自分に嫌気がさす。
 あたしは、なんだかさみしかったんだ。
 これからあたしたちの関係が変わっていく予感が胸を突いて、さみしい。

 崎くんは、目鼻立ちがはっきりとした精悍な顔立ちで、身長も高い上に体格もいいので、木曜の昼休みに杏を迎えにうちのクラスにやってくるたび、女子たちにそこはかとなく騒がれていた。
 そんな彗星のごとく現れた当人は、しかし杏以外の女にはまるで眼中にございませんという様子だった。
 崎くんはいつもにこにこしながら、よく通る声で杏の名前を呼ぶ。体育でグラウンドに出た日には、三階の窓から人目もはばからず、杏に向かって満面の笑みで手を振る。犬かよ、と呆れる一方で、杏のことがほんとうに大好きなのがよくわかる。

「オネエサン、元気ないじゃない」

 杏のいない、木曜の昼休み。
 あたしはなぜか森林と、屋上で昼食を共にしていた。
 つうか屋上って立ち入り禁止じゃなかったっけ? そんな疑問が今さら頭に浮かぶほど、森林はごくふつうにあたしを昼食に誘い、ごくふつうに屋上の扉を開けたのだった。
 こいつ、ぜったいふだんから出入りしてやがるな。抜け目ないやつ……。
 鳥の巣頭が初夏のさわやかな風にさらされているのが視界の端にうつっている。
 元気ないじゃない、という言葉については、なんだか答える気力が削がれて、とりあえず無視した。

「……森林はさー、どう思った?」

 自分のお弁当のおかずを、口に運ぶでもなく箸で弄びつつ、隣に問うた。

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