杏と仲良くなったのは、高一の四月。
 出席番号順であたしの前の席に座っていた杏は、やわらかそうなロングヘアから花の香りが漂ってくるような、いかにも「女の子らしいお嬢さま」という印象の子だった。
 まだ名前も知らないうちから、この子とは合わなそうだな、と思った。けれどそんなあたしの予想を裏切って、四月の後半になる頃には、杏とは一番仲のいい友だちになっていた。
 杏は、見た目の印象よりずっとサバサバしている。常にテンションは低いけど、自分の意見ははっきり言うし、気になったことはすぐに質問する。好奇心旺盛な性分のせいなのか、成績はかなり優秀。しかし優等生かと思いきや、酒が好きなどという一面もある。そんな見た目とのギャップがおもしろくて、あたしは杏のことが好きだ。
 “ある面”を除いては。

「あ、徳丸さんだ……」
「かわいい……」

 杏は、けっこうモテる。彼女の周りをちょっと気にしてみれば、すぐにわかることだ。小さなお人形さんみたいな外見は女のあたしから見たってかわいいし、まあ納得がいく。
 でもそこまで表立って騒がれていないせいか(杏はなぜか、陰気ないかにもオタク系の男に特にモテるのだった)、肝心の本人はそのことにまったく気がついてない。それどころか杏は、自分はモテないと思っている。そういうところが、なんだか危なっかしいなと思う。危機管理に欠けているというか。

「杏、あんたさ、ほんと夜道とか気をつけなきゃダメだよ?」
「大丈夫だよ。わたし痴漢とかそうゆうの、あったことないの」

 何を根拠にそんなあっけらかんと大丈夫だと言えるのか。勉強はできるくせに、ほんとになんでこういうところは欠けてるんだろう……。
 少女連れ去りだとかストーカーだとか、テレビから物騒な情報が流れるたびに、あたしは高校ではじめてできた仲のいい友だちがさらわれやしないか心配だった。

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