中二になって、カツアゲされそうになっていた同級生を助けたら、そいつと友だちになった。
 佐々木拓実。拓実は、なんで俺といっしょにいてくれるのか皆目見当もつかないぐらい真面目な男子だけど、俺みたいなのにも臆することなく堂々と話しかけてくれるいいやつだ。たまに真面目が過ぎて友だちというより保護者みたいな感覚をおぼえることもあるけど。
 拓実は、俺のことを柔道部にしつこく勧誘してきた。部員数が足らなくて存続の危機なのだとか。いい体してるんだからもったいない、とか半ば周囲から誤解をまねきそうな口説き文句で迫ってくるのである。
 柔道か、と思う。
 昔、一瞬だけ道場に通っていたけど、一瞬だけあってあんまりいい思い出ないんだよな……。練習とか続いた試しないし。サボる自信しかない。
 しかし押しに弱い俺は、結局なんやかんやで入部届にサインをしてしまったのだった。
 部活は、練習はだるいけど、かといって想像していたより悪いものでもなかった。むしろ、なんだか楽しかった。先輩たちはみんないい人だし、喧嘩以外で体を動かすことが、ものすごく気持ちいい。
 休み時間は拓実と過ごすようになり、放課後は部活。必然的にふつうの中学生活を送るようになったら、不思議と柄の悪い連中に絡まれることが少なくなった。
 あれほど喧嘩ばかりの毎日だったのに、あっさり変わるもんだな。でも、そんなもんなのかもしれないな、と妙に納得している自分がいた。

「……少しはマシに見えるかなあ」
「崎、なんか言ったか?」
「なんでもないっす」

 心の隅で、「あんまり喧嘩しないほうがいいと思う」と俺を静かに諭してくれた声を反芻する。手の甲の傷はもう跡形もない。ハンカチ、悪いことしたな。
 もうあんな偶然はないかもしれないけど、もしまたどこかで彼女を見かけたら、そのとき彼女の目にうつる俺がマシな人間であればいいと、誰にでもなく願った。

 その年の夏休み、拓実と高校見学に行くことになった。正確には暇だったからついて行った。
 道中、行き先を聞いて思わず声をあげた。

「え、東園高?」
「崎でも知ってるのか」
「そりゃ……。てか俺んちからわりと近いし」

 東園高校といえば、県内でも有名な進学校だ。文武両道に重きを置いているらしく、勉強だけじゃなくて部活動も盛んだ(と、拓実から聞いた)。
 学校自体の歴史は古いが、去年改修工事が終わったばかりの校舎は、見学してみれば公立校に思えないくらいにはきれいだった。食堂もあるし、中庭には大きな花時計まである。

「拓実、ここにするの? 第一希望」
「ああ。柔道部があるのはここらへんだと東園高だけだしな。校風も落ち着いてるし。崎は?」
「んー、まだ決めてない」

 へらりと笑えば、拓実は呆れた顔になる。

「だってまだ二年じゃん」
「そうだけど、今のうちからいくつか絞っとかないと、あとで焦るぞ」
「そっすね……」

 耳が痛い言葉を苦笑で流しつつ、改めて敷地内を見渡す。拓実の付き添いで来ただけだったけど、いい学校だな、と思った。緑が多いせいかもしれない。空気が澄んでるような気がした。こういう学校には物騒な先輩とかもいなそうだし。あと、俺は朝に弱いから、家から通いやすいというのも大変魅力的だ。
 拓実ならきっと大丈夫だろう。でも俺はキツイなあ、偏差値的に。授業中ぼけっとしてるほうが多いし、内申も期待できないし……。
 まあ、もともと無縁だと割り切っていた学校だ。もっと自分に見合ったところにしよう。

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