昼休み、クラスメイトの女子に肩を叩かれた。
「徳丸さん、一年が呼んでるよ」
ぱっと教室の出入り口のほうを振り返ると、そこに立っていたのは予想外の人だった。
わたしと目が合うと、彼女はぺこっと小さく頭を下げた。活発そうなショートヘアがサラリとゆれる。
食堂で、崎くんと親しげに笑い合っていた、あの女の子だった。
「センパイとふたりで話がしたくて……いっしょに来てもらえませんか?」
そう言われ、彼女に連れられて中庭に来た。曰く、食堂だとうるさいからとのことだけど、週一とはいえ崎くんとお昼を食べている場所なので、わたしは少し複雑な気持ちだった。かといって妥協案があるわけでもないし。
「学校って、案外お昼食べながら静かに話せる場所って少ないですよね」
と、彼女は苦笑した。
見透かされたかとドキリとしたけど、わたしの向ける視線に対して彼女は、頭にハテナを浮かべて小首をかしげただけだった。
「えっと……じゃあ改めて、あたし一年の樹っていいます。崎とはクラスメイトなんです」
そう簡単に自己紹介した樹さんが崎くんの名前を出したことで、樹さんに呼び出されたときに感じた嫌な予感が当たったと思った。
ああ、やっぱり崎くんのことなんだ……。
修羅場なんて自分の人生において無縁だと疑っていなかったのに。
「すみません、急に呼び出したりして。でもどうしても、いてもたってもいらんなくて」
「……」
「センパイに対していきなりこんなこと聞くの、失礼かもしれないんですけど……」
崎と別れちゃったんですか?
きた、と思う。核心をつく質問に、胃がぎゅうっと縮こまるような感覚をおぼえた。今にも逃げ出したい気分だけど、でも、と保健室での七瀬からの言葉を思い出す。そして、別れてない、と心の中でわたしがつぶやいた。
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