消毒くさい。
三限目の体育を休んだ。仮病などではなく、貧血だ。
ベッドに横になると、少しは気分が落ちつく気がするけれど、胸のうちには憂鬱が雨雲のように垂れ込めている。
誰もいない保健室。喧騒もなにも聴こえない。耳鳴りがするほど静かだ。
しばしぼやっと天井を見上げていたけれど、それも飽きて、眠気もやってこないし、ジャージのポケットに入れていたスマホを取り出した。画面をタップし、画像フォルダの紫陽花の写真を眺める。
「……きれい……」
言葉とは裏腹に、声はただただ無感情に響く。
時間が過ぎるのがひどく遅く感じる。けれど、日付は驚くほどあっという間に過ぎていく。
崎くんと連絡をとらなくなって一週間が過ぎた。今日は金曜日だった。
昨日の昼休み、崎くんは迎えに来なかった。
「杏?」
カーテンの向こう側から声がして、慌ててスマホを仕舞う。
そっと開いたカーテンの隙間から七瀬が顔を覗かせた。
「大丈夫? まだ気持ち悪い? てか保健の先生いないの?」
「先生は職員室行った……。七瀬、授業は?」
「雨降ってきてさー、教室で自習になったから、こっそり抜けてきた」
梅雨万歳、とおどけながら、七瀬はベッドの端に腰かけた。
「顔色マシになったね」
「うん、寝てたから……」
なんとなく嘘をついてしまう。
ベッドの上で上半身を起こし、膝を抱える。外はまた雨なのか。梅雨っていつ頃まで続くんだっけ。なんだかもう永遠に梅雨が明けないような、そんな気がする。
「杏、先週からずっと憂鬱な顔してるね」
七瀬がわたしの顔を覗き込む。
「崎くんのこと?」
七瀬を見つめたまま、何も言えなくなる。すると七瀬が、やっぱりな、というように目を細めた。思わず、うつむく。
「……崎くんのこと、わかんなくて、こわいの」
観念して、わたしは口を開いた。
二人で公園に行った日のこと。その翌日の食堂でのこと。それから、木曜日にわたしが崎くんに言ってしまったことを。
これまでのいきさつを話したあと、わたしはぐちゃぐちゃの思考をなんとか紐解くように、自分の気持ちを、ゆっくりと話した。
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