自分でもどこまで打ち明けてしまったのかわからなくなって、しばらくぶりに顔を上げると、森先輩は何故かきょとんとした顔で俺を見据えていた。しかしすぐにぶはっと噴き出した。

「はっはっは! 崎クン、やっぱおもしれーな! そんで顔に似合わず意外と暗いな! いや、そもそも明るかったらストーカーなんてしねえか! はっはっは!」
「……そっすよ、根暗なんすよ俺は。ストーカーだし、嫉妬深いし、さそり座の男だし」
「ウンウン。でも、杏ちゃんは、嫌だったらちゃんと嫌だって言える子だよ」

 うなだれていた顔を再度上げる。森先輩はちょうど抹茶蒸しパンを食べ終えたところだった。中身のない袋をくしゃりとつぶす。その音が、妙に小粋よく聞こえた。
 
「合コンなんてめずらしいもん行ったかと思ったら、いきなりカレシつくってくるし。それが見覚えのあるストーカーくんだったから、いよいよ杏ちゃんが脅されたんじゃねーかって。それでなくとも、俺ぶっちゃけ最初は杏ちゃんにチクる気満々だったんだけどさ」
「…………」
「でもまあ、最近の杏ちゃん見てたら、どうやら脅されたわけじゃなさそうだし。今こうやって崎クンの話聞いてみても、なんか案外ふつーの恋に悩むイケメンみたいだから。根暗なさそり座の男だけど」
「森先輩……」
「にしても、こないだのサボテンはよかったなあ! 杏ちゃんがサボテン片手に教室戻ってきたとき、すっげー笑かしてもらったわ! はっはっは!」
「え〜、ひでぇ」

 苦笑しながら、ぐちゃぐちゃだった気持ちが少し軽くなった気がした。
 杏ちゃんは、嫌だったらちゃんと嫌だって言える子だよ。そんな森先輩の言葉に、ああそうだった、と思う。
 あの子はあんなにかわいい顔して、いつだって俺の手なんかかんたんに掴んでしまえるんだ。

 ――だから俺は、あの子を好きになったんだ。

 もし、徳丸さんが、俺といることでほんの一瞬でも幸せだと感じてくれるなら、俺と付き合ってよかったと一瞬でも思ってくれるなら、それだけで俺の生きている意味になる。

「愛が重いな……」
「なに胸に手ぇ当てて妄想してんだよ」
「アハハ、俺、森先輩と話せてよかったっす。黒歴史とかストーカーの件については、場合によっては物理で解決するしかないかなって思ったけど」
「俺も崎クンの意外な一面が見れておもしろかったわ。その思考が極端に体育会系過ぎるのはどうかと思うけどな」

 言いながら立ち上がった森先輩が、ふいに俺に向かって腕を振った。何かを投げたのだとわかって、反射的にそれを受け取る。見れば、でかいことに定評のある校内オリジナルの焼きそばパンだった。

「まー、また話そうぜ。案外楽しかったし」

 にやっと笑いかけられて、でも数十分前のそれよりだいぶくだけた笑い方に見えた。
 と、予鈴が聞こえた。
 そういえば、背後の体育館からの喧騒はいつのまにか聞こえない。話してばっかりだったからなんだかちっとも昼飯を食った気がしない。早々に森先輩からいただいた焼きそばパンの封を開け、食べながら俺も立ち上がる。

「あー、やべ。数学の課題やってねえや。杏ちゃんに写さしてもらおっと」
「……俺思ったんすけど、イトコって結婚できますよね? 森先輩がライバルとかやだな〜」
「はっはっは! 安心しろって、杏ちゃんはどう考えても妹だし。あと俺、好きな子いるし」
「……へえ〜」
「クッソどうでもいいって顔だな」

 俺も「杏ちゃん」って呼びたい……などとうらやみつつ、とりあえず手をつなぐことを当面の目標に据える。
 手をつなげたら、顔を見て名前を呼びたい。精一杯のやさしさで。



16.4.19

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