のんびり歩いて来てしまったので、購買はすでに混雑を極めている。それでもまあ何かは買えるだろってことで、生徒の波をうまいこと躱しながら進んでいく。
 俺の後ろのほうから拓実が、おまえがうらやましい、とため息混じりに言うけど、たしかにこういうときは無駄にでかい身長が役に立つ。

「拓実、何パンがいい? 買っとくよ」
「ああ、じゃあ頼んだ。甘いやつじゃなきゃなんでもいい。俺は飲みもん買っとくな」
「コーヒー牛乳よろしく〜」

 悪いな、と波から外れていく拓実を尻目に、俺はもう目前に控えている売り場から、拓実と俺の分をてきとうに物色し始める。
 売り場には意外とパンが余っていて、まだ選ぶ余地がありそうだ。なんにしよっかな。俺もあんぱん以外なら何だっていんだけど……。とりあえず焼きそばパンは食っときたい。
 そう思い、見れば、でかいことに定評のある校内オリジナル焼きそばパンは、ラスト一つだった。迷わずそちらへ手を伸ばす。と、反対側からも手が伸びてきた。

「……」
「……」

 思ったより近くにいた手の主と、ほぼ同時に顔を見合わせた。そして、すぐに見覚えのある顔だということに気づいた。顔、というか、そのくしゃくしゃの髪型にというか。

「……おお! 崎クン!」

 ぼんやりとして見えた顔が、とたんにぱっと笑顔になった。俺はというと、今まで口を利いたこともない相手に、いきなり旧友との再会のようなテンションで名前を呼ばれて戸惑いを隠せない。

「お。もーらい」
「……あっ」

 俺が呆然としている隙に、ひょいと焼きそばパンがかっさらわれた。

 取られてしまったもんはしょうがない。
 焼きそばパンはそもそも売り場に存在していなかったということで自分を納得させ、カレーパンやらコロッケパンやら他の惣菜パンを手に、それらの会計を済ませ、ひとまず生徒の群から外れた。

「崎ク〜ン、今日は杏ちゃんと食わねえの?」

 と、なぜか俺のあとに続いてきたくしゃくしゃ頭のその男が、陽気に声をかけてきた。
 杏ちゃん。その名前を聞いて、俺はつい条件反射のように振り向いてしまう。犬か、俺は。

「あ〜、はい。今日は……」
「ふーん。そんなら、俺と食おうぜ」
「エッ?」
「いいじゃん、なあ?」

 飄々として見えるのに、案外押しが強い。加えて目の前の男が先輩というのもあって、どうにも俺は言葉に詰まるのだった。

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