朝は苦手だ、ほんとうは。
 学校が休みの日は、予定がなければ起きるのはいつも昼近くになってしまう。でも今朝は目覚めがよくて、アラームの9時に起きることができた。
 リビングへ顔を出すと、すでにカーテンが開かれていた。そういえば今日は、お父さんは休日出勤だって言ってたっけ……。
 お父さんに何か聞かれたら「七瀬と遊ぶ」と言い訳するつもりだったけど、ひとまずその必要がなくなって、ちょっと安堵する。
 わたしは、冷蔵庫から出したミネラルウォーターを飲みながら、ベランダへ出た。ハーブの鉢植えが並ぶ中、マグカップサイズの小さくてまるっこいサボテンの鉢植えが朝日を浴びていた。その前にしゃがんで、そっと話しかける。

「……おはよ」

 植物を育てる上で、声をかけるとよく育つってゆうのは、ほんとなのかな。



 今日は、崎くんと二人で出かける。
 といっても、遠出するわけではなく、わたしの家の最寄りの緑坂駅で待ち合わせて、近所の公園を散歩する……という我ながらほのぼのとしたプランだ。
 そもそもの発端は、つい先日、崎くんとメッセージで他愛のないやりとりをしていたとき。そういえば緑坂公園の紫陽花が見頃だという話をしてみたところ、崎くんが「そうなんだ、俺見たいな」とすぐに返事をくれたので、わたしはちょっとうれしくなって「じゃあ、見に行く?」と持ちかけて、決まったのだった。
 それにしても、

 ――男子って、花とか興味なさそうだけど……。

 いいんだろうか。
 駅までの道すがら、わたしは今さら考えてしまうのだった。
 いいのかな、崎くん。無理してわたしに合わせてくれてたらどうしよう。そもそも高校生の初デートって、もっとこう、映画とかテーマパークとか……。わたしあんまり話すの得意じゃないし、話題続かなくなったらやだな……。
 などとうだうだ考えながら歩いていたら、あっという間に駅が見えてきた。
 わたしは一度立ち止まって、バッグからスマホを取り出した。時刻表示は10時50分。待ち合わせ時間の10分前だった。

「……」

 駅前広場の落葉樹を囲んだベンチに、大きな男の子が座っているのが見える。猫背気味になって、スマホをいじっている。
 その姿を見つけた瞬間、なんとなく気恥ずかしいような気持ちになった。服、へんじゃないかな、とか、またそんな今さらなことを考えてしまう。
 と、手に持ったままのスマホがふるえて、画面を見ると、メッセージがきていた。

『着きました』

 受信したばかりのメッセージを見て、わたしはうんと頷いた。

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