「でも、やっぱうれしいよ」
「なにが?」
「なんだかんだ今こうやっていっしょに飯食えてるし、昨日勇気出して言ってよかったなって」

 崎くんが勇気という言葉を使ったので、わたしは少し驚いた。
 昨日の告白は、てっきりただのその場の勢いみたいなものかと思っていたけれど、そうじゃなかったのかな。わたしのことを気になった理由はさておき。
 そういえば昨日、隣にいた崎くんはちっとも酒臭くなかったな。そもそも崎くんは酒なんて飲んでなかったのかもしれない。
 あ、まただ。この感じ、体の内側からくすぐられるような。頬がちょっとだけ熱いのがわかる。

「崎くんは……」
「ん?」
「なんだか、人生楽しそうだね」

 わたしは、どうにも照れくさくてくすぐったい気持ちを誤魔化すように言った。膝の上で両手で頬杖をつく。視線の先の花時計の長針が、カチリと動いた。
 崎くんも片手で頬杖をつくのが横目に見えた。その姿勢のままわたしの顔を覗き込んでくるので、つられるようにそちらを見やる。

「徳丸さんは、人生楽しくない?」

 なんでそんなにまっすぐ見つめてくるんだろう……。
 わたしはその目の逸らし方さえわからずに、頬杖をついたままゆるく小首を傾げた。

「……わからん」
「ははっ」

 崎くんは笑い、ベンチから立ち上がった。その場で大きく伸びをする。
 天高くまっすぐ伸びる両腕と背筋が、なんだろう、何かに似ている。
 風にのって、また不思議となつかしい香りがした。花の香りとも香水とも違う、ああこれは崎くんのにおいなんだ、とわたしは気づいた。でも、どうしてなつかしいなんて思うんだろう。
 崎くんを見ていると不思議だ。わたしは「なんで」「どうして」が尽きない。

「あのー、徳丸さん、今さらなんですが……」

 急にこっちに振り向いたかと思えば、妙に改まった言い方をする。わたしは今一度小首を傾げた。

「俺、敬語使ったほうがいいかな?」
「……自然体でどうぞ」



15.7.29

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