「崎くん、もう一つ聞きたいんだけど」
「んっ?」

 焼きそばパンをもぐもぐしながら崎くんが再びわたしを見る。口の端っこに青海苔ついてるけど、見なかったことにしよう。

「崎くんは、なんでわたしと付き合いたいと思ったの?」

 咀嚼したものをゴクッと飲み込んだ喉の音がよく聞こえた。見開いた目がそのあと一瞬泳いだのを、わたしは見逃さなかった。

「ねえ、どうして?」
「あー、えーと……徳丸さんが俺の中で気になる存在だから?」
「なんで気になるの? どこから気になったの?」
「実はさっきもちょっと思ったんだけど、徳丸さんって意外と突っ込んでくるよね」
「気になったことはなるべく消化したい質なの」
「好奇心旺盛なんだね」

 なぜかやけに和んだふうに言われる。
 崎くんは、すぐには質問に答えてくれなかった。まず残った焼きそばパンをすべてたいらげて、それから改まったように咳払いをして、ようやくわたしに向き直った。

「えーっとね……」
「うん」
「最初に気になったきっかけは……その、ピ、ピザの……」
「ピザ?」
「……昨日、ピザのトマトソースを、指についたソースをね? 徳丸さんがなめたのが、なんというか……すごく……」
「……」
「いやっ、あの! べつにやましい意味ではなくて! なんていうか、こう純粋に、かっ、かわいいな〜って思っただけで……だからそんな目で見ないで!」

 そんな目ってどんな目、と思うけど、崎くんがそんなに狼狽えるほどべつに引いてもないし、軽蔑などという気持ちは微塵もなかった。
 そんなことで? と思ったら、またしても肩の力が抜けたのだ。
 わたしも、残ったメロンパンをジャスミンティーと共に片づけて、それからふうとため息をつく。そんなわたしの様子をうかがうような、崎くんのおずおずとした視線を感じる。

「あの、すいません……」
「なんで謝るの?」
「キモいっすよね、俺」
「いいよ、べつに気にしてないから」
「そっかよかった〜でもそれはそれで傷つくな〜」

 項垂れながら、よくわからないことを言う。
 失礼かもしれないけど、こんなに大きな体して、わたしの言葉にいちいち一喜一憂する姿は見ていてちょっとおもしろい。
 家の近所の山本さんちのモモタロが頭をよぎった。モモタロとは、立派な体格と精悍な顔立ちとは裏腹に、わたしが通りかかるといつも柵の隙間から頭を出して、「なでてください」と無邪気に要求するジャーマンシェパードドッグの男の子だ。

「徳丸さんは?」

 わたしがひそかに犬のモモタロと重ねていることも露知らず、空気を変えるように、崎くんが至極明るい声を出す。

「徳丸さんは、なんで俺と付き合ってくれたの?」
「なんでって……」
「うんうん」
「特に嫌じゃなかったし」
「うんうん」
「……それだけだけど」
「そっか〜それだけか〜」

 嘘偽りなく正直に答えると、崎くんはまた笑いながら項垂れるのだった。

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