――文化祭から数日後。
休日。わたしの部屋で、崎くんといっしょにDVDを観ている。
のっぴきならない理由により当日見られなかった、例の崎くんのクラスのオリジナル映画である。
後夜祭では、出し物の種類別に優秀賞が贈られるコンテストがあるのだが、なんと映像部門でこの映画が優秀賞を獲得したらしいのだ。
タイトルは『青春ノ唄 〜愛と誠〜』。聞くからにベタそうな雰囲気が漂っているけれど、実際観てみればその期待を裏切らないベタな内容であった。
主人公の男の子が、すきな女の子をかけて幼なじみでありライバルである、他校の番長とぶつかり合い、その日々の中で主人公が心身共に成長を遂げる――青春を地で行く物語だ。
そして言わずもがな、他校の番長役を演じたのが崎くんである。その役柄というのが、硬派で寡黙で無愛想、だけどたまにやさしい……みたいな、端的に言ってクールな男の子。
わたしの知っている崎くんとは、まあわりと対照的な役柄なわけなのだが……。
「どうだった?」
エンドロールを終えて、崎くんが伸びをしつつわたしに訊ねた。
どうだった、と聞かれると、素直によかったと思う。ベタベタだけどそれがまた清々しかったし、なにより生徒たちが全力で真面目に演じていて、観ていて気持ちがよかった。樹さんもヤンキー女子高生役で出ていてかわいかったし。
崎くんの演技も、思っていたよりずっとまともで……。
ううん、まとも、というか、こ、これは……。
「……崎くん、ほとんど台詞なかったね」
そう、時間にして一時間ほどの物語で、崎くんの出番は多いのに台詞は片手で数えるほどしかなかったのだ。
しかもその台詞も「ああ」だとか「おう」だとか、そんなもん。
「あはは、そうなんだよね。ほんとはもっと台詞いっぱいあったんだけど、俺の演技が下手すぎるからって、脚本担当が最終的に『もうトオルくんは喋らないキャラでいこう』って急遽変更になって」
「そ、そう……。あ、でも、台詞はないけど、表情にすごく迫力あるしちゃんと無愛想だし、下手すぎるってことはないんじゃ……」
「ああそれは、『杏ちゃん禁止令』出されてたからだと思う」
なんだそれは。
「『徳丸先輩に会わないようにすれば少しは表情がしまるんじゃないか』って拓実の余計な提案で、練習期間中は杏ちゃんに会うなって言われてたんだよね」
「……」
「はあ、すっげえつらかった……。つらくて『全員死ね』って思いながら演技してたもん……」
たしかにそんな気概で演じていたら凶悪な顔にもなる。
記憶がよみがったらしく、しょんぼりと子犬のようにうなだれる崎くんの後頭部を、とりあえずそっとなでてあげた。
はっ、刈り上げ部分が地味に気持ちいい……。
17.5.13
- 95 -
{ prev back next }