「……ふ、ふたりきりになりたかったの……」

 頬が死ぬほど熱い。崎くんの顔をとてもまともに見ていられなくて、わたしは縮こまるように膝を抱いてうつむいた。

「崎くんのこと、独り占めしたかったの」

 は、恥ずかしい……。でも、素直に口に出してしまうと、案外自己嫌悪に陥ることはなかった。
 わたし、崎くんのことすきなんだなあ、と、そんなふうに改めて自分の気持ちを実感してしまうほどには。
 カッコ悪い嫉妬の心も、きっとわたしが崎くんに恋をしている故なのだ。
 膝を抱えながら、うずうずとしたこの心を自己分析するなどして恥ずかしさをやり過ごしていたら、ふっと視界に影が落ちた。

「杏ちゃん」

 ぐらりと視界が反転した。
 わたしの手首をつかんだ崎くんが、そのままわたしをベッドに押し倒したのだった。状況が飲み込めず、ぽかんとシーツに寝転がるわたしに、崎くんがやけに熱っぽい言葉を吐く。

「ごめん。我慢できないかも」

 なにを?
 と思ったのもつかの間、長ランを脱ぎ捨てた崎くんがわたしに覆いかぶさってきたので、一気に動転した。
 たくましい体の下で身じろぎ、精一杯抵抗の意を示す。

「崎くん! まって、ここ保健室……!」
「うん、わかってる」
「わかってるならどいてほしい……! あっ、映画! さ、崎くんのクラスの映画……! もう始まってるから行かなきゃ……」
「あはは、大丈夫大丈夫。焼き増しのDVDもらってるし。それ今度いっしょに観よ?」

 あはは、じゃない。
 頭の片隅で、チーンとむなしい音が鳴った気がした。そんなわたしを間近から見下ろして、崎くんがにこっと笑いかける。

「誰か来たらやめるから。ね?」

 甘えるようにに小首をかしげた崎くんに、またしても胸がきゅんと高鳴ってしまう。
 ね? って、ずるい……。番長なのに。
 今だけでも、崎くんを恐いと思いたかった。そうしたらそんな子犬みたいな顔を向けられても無碍に突っぱねることができたなのに。
 ……たぶん。

 ああ、後生だから、全校教師生徒文化祭に夢中になって、この場所に誰も来ませんように!



17.5.13

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